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「真琴…!」


リノの悲痛な声が銃声の消えた静かな空間に響き渡った。アレル、クレスに向けていた魔法を止め急いで駆け寄る。

ある程度リノのおかげで回復した二人は、よろめきながらも立ち上がり、真琴の元へと向かった。


「真琴、真琴…!」


左脇腹辺りに赤いシミがじわじわと広がっていく。ここにいる人物ではない誰がミルに向けて売った銃弾は、狙った本人ではなく真琴を貫いた。ミルの心臓をめがけて撃ったそれは、真琴との身長差のおかげで真琴の心臓には当たらなかったものの、撃たれたのは変わらない事実。

リノは焦り、涙を浮かべながら今度は真琴に向かって魔法を使う。


「どうしよ…真琴はこの世界の人じゃないから…中々効かない…!それに、さっき大分体力使っちゃって…」


少しずつだが傷が癒されて行くものの、普段と比べれば限りなく遅かった。それは真琴がこの世界の人ではないのだと言う事が大きく関わり、治療の妨げとなってしまっていた。

自分の無力さを感じ、リノは唇を噛んだ。
そんなリノの隣に膝を着き、二つの魔法陣が浮かび上がる。


「ごめん、僕達に力を使っちゃった所為だよね…」
「まだ全快じゃないけど、このぐらいの魔法なら使える」


アレルとクレスは口々にそう言い、真琴に向けて魔法を発した。

ミルはそんな様子を呆然と、自分はどこか違う場所で見ているように眺めていた。まるでテレビに映った映像を他人の視点で見ているような感覚。何かを写していながらも何も写していないような目が真琴を捉えている。


脳裏に浮かぶのは、自分を庇った弟の姿。
記憶と今がぴったりと重なった。



「私は、また…同じ事を…?」



その声は誰にも届かない。




一方ラスは、発砲した人物の後を追いかけていた。
真琴が撃たれてすぐに部屋を飛び出したおかげか自分に背を向けて走る黒い影を逃しはしなかった。
ラスは一旦足を止めると拳銃を前に突き出し、何発か発砲する。それは前を行く人物の足元に当たり、行く手を阻ませた。

コツン、と硬い音がした。
ラスは顔を隠す黒いフードの上から後頭部に銃口を突き付ける。


「何を企んでやがる、あの姫様に変な入れ知恵したのもお前だな」
「………」
「”魔導師”…、久々に聞いた名前だ。大分前に滅ぼされた一族の名前、それが何で今更になって出てくる?」
「……」
「それにアレルとクレスを捕らえていた魔法陣、違法的な方法で作り上げたオーブを使ったリング、あれも”異質”だな…、全部答えろよ」


どれだけラスが質問を突きつけても、その人物は黙ったまま静かに立ち尽くした。



「もう一度聞く、お前は何を企んでやがる」



静かに、冷静に、言い放った。
言い放った直後にその人物は口元に弧を描くと水風船が弾け割れるように、その人物を中心に大量の圧力のような爆風が発せられた。
咄嗟に自分の前に防御結界を貼る。だが辺りはその爆風のせいで埃が舞い、白く濁った。



「まだ話せるような時間じゃない、まだ待てばいい」



濁った先から低い声でそう告げられた。気付いた時にはその姿はもう既に無く、拳銃をベルトケースに戻す。



「巫山戯るなよ…、嫌でも見覚えがあるんだ、あの魔法陣も”リング”も…!」



感情を押し殺したような声で独り言を呟く。
脳裏には彼の中に鮮明に残る”あの日”の記憶が思い浮かんだ。
そうこうしているうちに、やけに外が騒がしくなった。バタバタと忙しない足音が此方に迫ってくるのを感じた。



「アメディウス王国所属騎士団小部隊代表のマーティスだ、悪いようにはしない。俺たちについてきて貰おう」
「……」


面倒な奴が来た、と、瞬間的に思う。一度はしまった拳銃に再び手を掛けかけたその時、その動きを制するような声が聞こえた。


「マーティス!そいつは何もしてない、それよりも数人で良い、こっちを手伝って欲しい」
「…クレス…!」


クレスが額に汗を浮かべながら走ってきたのだ。呼吸に合わせて肩が大きく動く。回復してもらったとは言え、やはり限界が近いのには変わりがないのだ。ラスに一度視線を送ると、マーティスに視線を向けてそう説得する。
少しの間は不服そうな表情をうかべていたものの、クレスの真剣な表情を信じたらしく小さく頷いた。



「だけど城には来てもらうから、もう暫くここで待っていて欲しい」


クレスはラスに一言だけそう告げ、マーティスを引き連れて奥へと駆け出した。




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