7



ミルが付けていたリングのオーブが割れ砕けた事により、アレル、クレスの腕に着いていた物も砕け落ちた。ぱきん、と音を立てて二つに割れたそれは暫くしてから消えた。

真琴とリノは焦りを帯びた様子で二人の元へ駆け寄り、手を掴む。微量な力ながらも手を握り返した。うっすらと意識を取り戻したアレルとクレスは僅かに笑い、掠れた声で呟く。


「ありがと…」
「おかげで、助かった…な…」


地面に描かれていた魔法陣も、真琴が足を踏み入れた事により一部が消え効力を示さなくなった。完全な拘束から抜け出す事が出来た二人の顔色は僅かながらも戻った気がする。


「待ってて…今少しでも体力を…!」


そう言ってリノの手元に淡い緑の魔法陣が浮かび上がる。そこから同じ色の光の胞子がふわふわと宙を舞った。

その様子をただ眺めていた真琴は、リノの頬に小さな切り傷がある事に気付き、心配そうに見つめた。


「リノ、その…頬の傷…」
「ん?あぁ…さっき結界を割った時に出来たのかな…”リング”を介して作ってあったとは言え他人が作った物だから、勝手に割るとそれなりの負荷がね…」
「私は、ならなかったのに?」
「真琴は多分これに対応されないんじゃないかなぁ…ま、あたしの事より、こっちに専念しなきゃ!」


リノは首を傾げながら憶測を告げると、すぐに笑い、目の前の事に専念した。
その間、ミルは力なくそのまま地面に座り込んだ。
砕けたオーブの欠片を握り締め、涙を流す。


「なんで…なんでこんな…、私は、”あの人”の言う通りに…!」
「”あの人”って誰だ」


ラスは冷静な口ぶりでそう呟く。ミルはラスの顔を見上げて見つめ、口を開いては再び閉じた。握り締めた欠片が掌に食い込み、血が滲み出る。


「”あの人”が…”魔導師”様が私に力をくれたのよ…『大好きな弟を取り戻したいのなら、”アリス”になる他に方法はない』って…」
「その、”魔導師”様には直接会ってるんだな?」


ミルは小さく頷く。



「直接会ったとは言っても、あの人の顔は一度も見たことがないわ。何時だって顔を見せる事は無かった。私にこのリングと魔法陣の書き方を教えてくれた…」


その後のミルの話を纏めると、その”魔導師”はまず手始めに一番の厄介者となるアレル、クレスを殺す事を命じた。そして二人をどうにかおびき出し、自分の使いを渡すからそいつらに二人を攻撃させ、この場所に連れて来させれば良いと伝えたようだ。

その計画は半ば成功したような物で、アレル、クレスをここに連れ込む事に成功した。真琴とリノが居たのは予定外だったが、それは後でどうにかすればいいと思ったのだ。だが、ラスが現れ、全てが一転してしまったのだ。そして今に至る。


「私は、ラルを…取り戻したかっただけなのに…!」


涙ながらに震えた声で言葉を紡ぐ。
真琴は静かに立ち上がり、ミルの元へと駆け寄った。


「…?」
「あのね、このままじゃ…同じ事を繰り返す事になっちゃうと思うの…」
「……」
「貴女のやり方じゃ”アリス”になる為に、他の人が死んじゃう…それじゃ、幸せになれないよ?」



真琴の言葉に深く深く俯いた。
そんなミルに手を差し出し、優しい口調で言った。


「だから、一緒に探そう、誰も死なない”アリス”の決め方」


ミルは一瞬戸惑った様子を見せる。伸ばされた手に触れようと何度も手を動かす。
その様子をみていた真琴はミルの背後に黒く光る何かを見かけた。それは真っ直ぐに、ミルへと向いている。

それから少しの時間を得て、
本能的に何かを悟った。


「危ない…!」


そう叫んでミルの腕を強く引いた。
腕を引いたのと、銃声が鳴り響くのが重なった。

ミルの中で、あの日の記憶と重なる。
彼女の横をすり抜けるように、真琴の体が倒れた。






[ 106/195 ]

[*prev] [next#]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -