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「おい」


ラスは低い声で真琴を呼ぶ。真琴はラスの元へ駆け寄った。


「あの中じゃ、もう魔法なんか使えない。あいつが”リング”を介して作ったモンが腕に着いてる以上、不意をつく事ももう無理だ…そこまでは分かるか?」
「うん…、それで、地面に書いてある陣の所為で身動きが…」


ラスの言葉に続いた真琴の言葉に小さく頷いた。あちら側で結界を壊す事も魔法陣を消す事も不可能だということは、直感的に感じていた。此方側がどうにか手立てをしない限り思う壷に嵌まって行くに違いなかった。


「お前が結界を割れ」


可否を聞く間も無く真琴に一本の剣が渡された。ミルが持っていた物に良く似たデザインの剣だ。


「え?私、が…?!」
「隙を作ってやる。その隙を見計らって外側から刃を結界に突き立てろ、お前はこの世界の人じゃない、結界を壊したぐらいの反動は受けないはずだ」


嫌だとは言わせないとでも言うように、強気な口調で淡々と説明をした。そしてそのまま真琴に背を向けるとリノに近づいて行った。


「リノ」
「何、あたしにもやれって?」
「お前も隙を作るのを手伝ってもらう、火球は出せるか…?」
「出せる、けど…」
「出来る限りの数を作れ。で、結界目掛けて全部飛ばせ」


リノもまた、可否を聞く間も与えては貰えなかった。悩んでいる暇なんてない。ぶっつけ本番の一本勝負のようなものだった。真琴もリノも覚悟を決めたように息を飲んだ。


今度こそ二人を助けたい。
守られてばかりじゃだめなんだと、強く思った。



「行くぞ」



ラスのその一言を合図に、室内に風が湧き上がった。リノの足元には赤い魔法陣、ラスの足元には青い魔法陣が描かれ下からそれぞれの色の光が照らす。
リノの周りには小さく音を立てながら火球が作られていく。揺れる20個程度の火球が、リノの炎を優しい赤色で照らした。一方、ラスの周りには、リノ同様に音を立てながら火球ではなく水球が浮かび出来上がっていった。真琴はそんな二人の姿を後ろで見ていた。半ば魅了されていたと言っても間違いないだろう。我に返ったように渡された剣を強く握り締め、前を見据えた。

リノは閉じた瞳をすっと開く。腕を振り払ったと同時に全ての火球が全速力で前へと飛ぶ。その火球を追うように、ラスが作った水球も前へと飛んだ。前を行く火球に追いかけた水球がぶつかり、濃い霧を生み出した。一つ一つがぶつかる度に弾けるように広がった霧は少しの時間で部屋中を満了させた。

視界が一気に悪くなる。ミルはまた、忌々しげに唇を噛んだ。真琴は霧の中を結界の元へと駆け出す。

霧の中で黒い影が揺れた。ラスが真琴に告げた言葉を聴いていたミルは真琴を止める事を最優先だと考え、剣を抜いた。その影に狙いを定めて振り下ろす。振り下ろした衝撃で霧は剣の外側にはける。硬い金属同士がぶつかる音がした。

捉えた、そう確信していたが次第に晴れて行く霧の中にある人影に目を見開いた。


「残念だったな。まだ詰めが甘いぞ、”お嬢様”…!」


ラスは小さく口元に弧を描く。ミルの剣を受けたサーベルの刃を滑らせて刃を避けると足を振り上げて手首に蹴りを入れた。握っていた剣は地面を滑って霧の中に消える。



「……っ、そんな…!!」
「終わりだな、お前の計画も」


ラスはミルへと銃口を向けた。


それと同時に真琴は結界ね近くへとたどり着いた。結界越しの所為もあるかもしれないが、アレルもクレスも顔色は良くない。急がなければ、と、強く思った。
結界に向かって刃が強く振り下ろされる。分厚いガラスに物をぶつけているような感覚だった。何度も繰り返す度に手が痛み痺れて来た。それを察知したのか、どこからかリノも姿を現す。


「リノ…!」
「あたしもやるよ…、真琴だけに辛い思いなんてさせないし、あたしも二人を助けたいから…!」


リノは小さく笑みを浮かべる。それにつられて真琴も笑みを浮かべた。二人で柄を握り締め、大きく振り上げた。


『せーの…!!』


二人で振り下ろした剣が結界を壊す音と、ラスが発砲した銃声の音は綺麗過ぎる程に綺麗に重なった。

結界が砕け落ちる音とガラス玉が割れ落ちる音が、静かな空間に響いた。




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