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頬に刃先が食い込む。そこなら一筋の血が頬を伝って床に落ちた。振り上げられた剣に視線を送った。剣に若干隠れた顔は恐怖を感じさせる程に歪んで、狂って、笑っていた。


「アレル…!」


真琴はアレルの元へ近付こうと走り出すが直ぐにドーム型の膜ーー結界に近付く事を阻まれた。結界にぶつかり、その衝撃で後ろに2、3歩下がる。


振り上げられた剣は、勢い良く振り下ろされた。衝撃音に思わず目を瞑る。少ししてから恐る恐る、ゆっくりと目を開けた。


「…、っ!」


剣の先をアレルの片手が握り掴んでいた。力がお互いにこもっているのだろう、掴む腕と剣は小刻みに震え、アレルの手からは血が滴り落ちた。


「そう、簡単に…、君に殺される訳にはいかない…からね…!」


アレルが挑発的に笑みを浮かべた。それが癇に障ったのか握り締めていた剣を引き上げ、再び振りかざそうとする。引き上げた時に掌には痛みが走り、アレルは唇を噛む。


「行、け…っ!」


クレスの声が上がるのと、剣が振り下ろされる瞬間は一緒だった。
結界内で強い突風が吹いた。
クレスが半ば”賭け”のような感じで魔法を使ったのだ。意識を取り戻していないふりをして息を潜め、自分達の身動きを禁じている結界を壊すつもりだった。その作戦は半ば成功し、ミルが握っていた剣は手から離れて落ち、風によってクレスの近くまで滑り込む。

重たい体にどうにか力を入れて、手を伸ばした。


「っに、するのよ…!!」


風が止んだ。
それとほぼ同時に怒りの声が発せられ、ミルが手を前に突き出す。袖に隠れていた手首が姿を見せると、カラン、と無機質な音がした。赤く光る石が嵌められたリング。それが光を放つ。眩しさに目が眩んだ。


目が眩んでいるうちに、アレルとクレスの手首には白いリングが巻きついた。ぼんやりとした光を発していたそれは、艶のある硬いものへと変化していく。完全に変化が止まった途端に、二人の口から悲鳴に似た苦痛の声が一瞬だけ漏れた。


「……なに、何をしたの!?」
「魔法なんて使われたら厄介だもの、変えようとするなら変えさせなければいいんだわ」


リノの震えた声で発せられた言葉に、淡々と、なんの感情も持たないような冷たい声でミルは答えた。
恐怖と同時に怒りも湧き上がってくる。


「あんたねぇ……!」


今すぐにでも手を出してしまいそうなリノの肩を掴み、強い力で引き戻される。
振り返ればそこには、鋭い目でミルを睨むように見つめるラスの姿があった。


「誰?貴方は何でここにいるの?」
「んなモン、聞いて何になるんだよ。俺は自分の求める物があると思ったからここにいるだけだ」


理屈的に、屁理屈を述べた。
要点をぼかすように並べた言葉。ミルは忌々しそうに小さく舌打ちをする。

ラスは一瞬の隙に大腿部に巻きついたベルトケースから拳銃を取り出して発砲する。銃弾は結界に当たり跳ね返って、地面に落ちた。


「だけど、アンタがやってる事が正しいのかって言えば正しいとは思わない。自分が”利用されてる”んだって事、分からせてやるよ」







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