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ラスの後を静かに着いて行った真琴とリノは、行く先行く先にある扉を半ば闇雲に片っ端から開けた。大体は客室に使っていたんだろうと思われる部屋ばかりで、一向にアレルとクレスはみつからない。地下牢も真琴達が居た場所以外にはないのだと言う事も後々ラスの口から告げられた。



「っつか、流石は元王宮なだけあるわね…部屋多すぎ…」


リノが呆れ半分に溜息を吐きながら呟く。確かに虱潰しに扉を開けているものの、一つの階にいくつ扉があるのだろう。急がなければならないのは分かっているがそう簡単に見つけられないのが現実だった。



「……ここじゃなきゃ、あとはもうあの部屋しか無いな…」


一階の最後の部屋の扉を開けた時、ラスはぼそりと呟いた。
身を翻して来た道を戻り、階段を駆け上がった。真琴とリノも慌てながらラスを追いかける。


3階の一番奥の部屋。その部屋だけは扉が一層豪華な仕様になっていた。両開きの扉の隙間から、不自然な光が漏れ出している。強く光ったと思えば直ぐに弱い光になったりとを繰り返していた。真琴は扉を少しだけ押し、中が覗き見れる程度の隙間を作る。真琴はそこから、リノは真琴の下に潜り込み、中を覗き見た。

部屋の中心部辺りが光を発しているらしく、視線をずらすにつれて光は濃くなって行くような気がした。鏡のように床が反射しているのが見える。薄いドーム型の膜のようなものだろう。反射している所為かはっきりとは見えないが内側では時折雷が走っていた。



「なに…?」


リノが”何がおきてるの”と言いかけた途端、真琴の表情が瞬時に青ざめた。
それに気付いたリノも、間も無く青ざめる。見慣れた2人の姿を捉えたのだ。


「アレル!クレス!」


真琴が開きかけた扉を開け、真琴とリノは中に飛び込んだ。中心部に描かれた二つの魔法陣とそれを覆う薄い膜。其々の魔法陣の中に力なく横たわっている2人ーーアレル、クレス。その様子を冷めた目で見つめるのは一人の少女ーーーミル。



「…どうやって、あなた達は出てきたの…」


僅かに驚きを見せながら少女は冷静に呟く。
短く切り整えられた髪は嘗てこの世界にいた、少女の弟の姿を思い起こさせるようなものだった。


「それはこっちの台詞よ、貴女、何をするつもりなの…!」


リノが焦りを覚え、少しずつ前に歩み寄りながら問い掛けた。真琴もリノのあとを追うように歩み寄る。


「私は、私の願いを叶えるの…”あの人”がやり方を教えてくれたわ」
「願い…?」
「そう」


ミルは口元に弧を描く。


「全部、全部壊すの。私が、”アリス”になって、何もかもを無かったことにするのよ」



狂気じみた笑みが深く脳裏に刻まれた。
恐怖に身を震わせ、鳥肌が立つ。
返す言葉を失った2人は呆然としていた。


「……!」


不意に、意識を取り戻したアレルはぼんやりとした視界に真琴とリノの姿を捉えた。重たい身体では自由に身動きが取れないもののどうにか少しずつ動かした。
アレルもそうだが、まだ意識を取り戻さないクレスも、ミルが自分達に何をしようとしているのか、そしてそのまま思うように進んでしまったら彼女達2人もどうなってしまうのかを知っていた。



「……逃げろ…!」



第一声がそれだった。
叶うものなら自分の力でここから押し出したい。それが叶わない以上、精一杯の叫び。


「ーーーだからね?」


アレルの意識が戻ったのに気付いたからか、それとも決まっていた事なのか。細長い剣を掲げ、刃先をアレルの頬に軽く食い込ませる。



「後に回したら面倒な2人を、先に殺そうと思うの」



また、そう言って口元に弧を描いた。




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