3


真琴達が捕らえられていた檻は地下にあった。2人を檻から出した青年の後を追うように階段を駆け上がるも、駆け上がった先は見慣れない。所々に罅が入っていたり、薄汚れていたり。そんな状態でありながらも、元々は豪華な内装だったんだろうと想像出来た。

辺りを見回しつつ青年の後ろ姿を捉えるとこっそりとその後を追うように駆け出した。



「………」
「………」


暫くの間無言の時が進む。
廊下を踏む靴の音だけが、長い廊下に響き渡った。
青年はぴたりと足を止め、振り返るように顔を横に向ける。視線を真琴達に向け、ぼそりと呟いた。


「…おい」
「何?」
「………、何でついて来るんだよ」
「なんでって…、ここがどこだか分からないし?」


リノはしれっとした、当然だとでも言いたいような表情で青年に答える。青年は目を伏せて溜息を吐き出すと、再び顔を背け背を向けた。


「ちょ、何よ今の溜息!」
「…、ここは大分昔に使われてた王宮で、アメディウスの西外れにある」
「昔、使われてた?」
「……王家が一時的に勢力を失いかけた時に手放した城、今はリードルフにあるからこっちは使ってないんだろ」



青年は背を向けたまま淡々と答える。言われてみれば、廃れているとは言え、天井にはシャンデリアが設置されていたり、廊下の所々に飾られた装飾品が”金持ち”が使用していたんだと言う事を物語っていた。


「じゃあ、なんであたし達はここに?」
「……そんなの俺が知る訳ないだろ」


リノが言い切る前にはっきりと言い放つ。ごもっとも過ぎて返す言葉を失った。それを見計らって青年は歩を進めようと足を動かかけた瞬間、真琴は青年に向かって叫ぶように問いかけた。


「アレルと…クレスはどこ?」
「…、俺が知ってるって…思ってるのか?」
「うん」
「根拠はどこにある?俺がお前らをあそこから出したのも、ただのお人好しかもしれない」

冷たい視線が真琴を捉える。彼が今ここにいない二人を知っている保証なんてどこにもない。全くの赤の他人で、偶然この場に居合わせただけかもしれないのだ。真琴がそう聞いた理由ーー”根拠”となる物ははっきりとしたものではなかった。
冷たい視線に僅かに身を怯ませると、真琴は口を閉ざして俯いた。何かを言いかけては口を閉ざす。それを数回繰り返した。
再び沈黙が訪れる。何も返っては来ないと思い青年はゆっくりと前に進み出した。少し離れた時に、真琴の震えた声が届く。


「貴方も…、貴方も何か…探しているように見えたから…っ!それが、根拠…」
「………」


声は次第に小さくなっていく。そんなもの、”根拠”と呼べるに値するかしないかで言えば恐らく後者だ。真琴自身の直感に過ぎない。きっとそれは、そう告げた本人も感じているようで視線を反らせて目を伏せた。


「…… 」
「……、変なやつだな」
「え?」


青年は誰にも聞こえないような、小さな声でそう呟く。背を向けたままだが真琴の問いかけに答えるべく言葉を紡ぎ始めた。


「ここで、あいつら2人を使って何かしようと企んでるやつがいる。俺はそれを確かめに来た」
「2人を使う…?あたしを庇って気を失ってたクレスに近寄ってきた、顔に変な印を刻んだ奴らと関係してるの?」
「それ、アレルの所にもいた…!」
「…関係していなくはない、少なからず、”誰か”に”使われて”るんだろう」



真琴とリノはお互いに顔を見合わせた。
2人が思い描いているのは、互いの場所に現れた同じ物を刻んだ人物。その人物の目的は、明らかすぎる程にはっきりと分かっていた。



「”使って”いる奴を含む全員を俺は探している、着いて来たければ勝手について来い。ただ、なにがあっても自分の身は自分で守れ」


青年は二人にそう告げると、羽織っていたケープが風に靡く。それと同時に靴の音が鳴り響いた。



「行こう、二人を助けなきゃ…!」
「 うん…」



青年の後を二人は追いかけた。
ふと、気になる事が思い浮かぶ。
此方を振り向く様子を見せない青年に向かって、恐る恐る聞いた。


「貴方の、名前は…?」



真琴の言葉に、青年は一瞬表情を歪ませた。歪ませた、と言うより強張らせたと言った方が正しいだろうか。少しの間を開けて、青年はぼそりと呟いた。


「…...、ラス。ラス=キルクフォイン」



青年ーーラスの言葉に、僅かにリノが揺らいだ。





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