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背中からじわじわと冷たさを感じて、重たい瞼を上げた。
薄暗い世界に映ったのは所々に罅の入った天井と、敷き詰められた石畳の隙間から生えてくる小さな背丈の雑草。
僅かな肌寒さに身を震わせると、真琴は我に返ったように起き上がる。


今度は錆びた鉄格子が視界に入る。
近づいて触ってみるも手で壊せるような強度ではない。
振り返れば少し離れた所にリノが横たわっていた。急いで駆け寄り、揺すり起こすと真琴と同じ様に辺りを見回した。



「ここは…?」
「分からない、何処かの…地下牢かな…」


蝋燭の灯火に近い様な、ぼんやりとした明かりが所々に点いている。はっきりとした事は一切分からないが、自分たちが”閉じ込められているのだ”と言う事だけははっきりと分かる。

己の記憶が途切れるまでを黙り込んで二人を辿る。
真琴はアレルの元へ行き、リノはクレスの元へ向かった。そしてその先で出会った歪な印を頬に刻んだ者たち。
そこから記憶は止まっていた。


「アレル…、アレルはどこに…」
「あたしはクレスと一緒にいたの…だけどどこにも…」


この空間の中に、彼女たち二人以外の気配は感じない。同じ檻の中にも居ない。どこか、別の場所にいるんだと悟った途端にリノは鉄格子を掴んで揺さぶった。


「ちょっと!誰かいないの!?」



揺さぶっても叫んでも反応がない。リノは悔しそうに唇を噛むと、手を前に突き出す。魔法を使おうとしているのだろうと、真琴は悟り、リノを心配そうに見つめる。だが一行に魔法陣が描かれ、魔法が発動されない。真琴は首を傾げるとリノはその場に腰を抜かしたように座り込んだ。


「リノ?どうしたの…」
「なんか、魔法使おうとする度に変換しかけたマナをじわじわ持って行かれて…なんか…、上手く使えない…」


この場所では、魔法が使えない。
リノの曰く、どんな魔法を使おうかと思い描く所までは出来てもそれを発動させる迄の間の過程で熱した物から出てくる湯気のように体から抜けてしまうらしい。この状態では、魔法は使えない。真琴が持っていた鞄の中に入っていた拳銃とナイフも抜き出されてしまっていた。


「どうしよう…アレルもクレスもどこに…」
「ここから出ない事には何も始まらない…どうにかして、あたし達はここから出ないと…!」


どうにかしようと考えていた時、小さな足音が聞こえてきた。革靴が石畳の上を歩き、ほぼ一定のリズムを刻む。真琴とリノは息を潜めて、誰かが近づいて来るのを待った。もしかしたら、自分たちをここに連れてきた犯人かもしれない。

次第に近づいて来た足音の主は、何度か止まっては歩き止まっては歩きを繰り返していた。その回数から入れられた檻の前に、3つ別の檻があるのだと分かった。

真琴達の入れられた檻の前で足を止める。身の丈より少し短い程度の黒いロングケープを羽織り、無造作にはねた少し長めの髪を揺らした。前髪の隙間から、深い空色の瞳が覗く。見た目や身長からして、男性。


「ここじゃ…、ないのか…」


その青年はぼそりとそう呟くと、身を翻した。



「ちょ、ちょっと待って!!」



リノの言葉に足を止め、体ごと振り返りはしないものの、顔はこちらを向いていた。鋭い視線が、二人を見つめる。


「あんた何者なの? あたし達を連れてきた奴の仲間?」
「……お前には関係ないだろ。俺は探し物をしてるんだ」
「じゃあせめて!ここの鍵開けて!」


ぶっきらぼうにそう答えて離れて行こうとするも、再びリノに呼び止められる。ちらりと真琴を見やると、溜息を吐き出した。


大腿部に巻きついたベルトには拳銃を仕舞う革ケースが着いており、そこから拳銃を取り出すと容赦無く2、3発鍵穴に向かって発砲した。音を立てて南京錠は地面に落ち、鉄格子の扉が軋む音を立てて小さく開いた。


「ありがと!助かった!」
「………」



扉を開けて真琴とリノは檻の外に出る。リノは檻の外に出るなり青年な近づき、笑ながらお礼を告げるも、青年は視線を向けるだけで直ぐに背を向けて去って行ってしまった。

ぶつかった視線に、何かを感じた。
普段なら呼び止めて怒りそうなリノが、なにも言わずに呆然としていた。
そんなリノに真琴は覗き込むようにして視線を合わせた。


「リノ?」
「あ、ごめん!ぼーっとしてた…」
「大丈夫、行こう…二人、探さなきゃ」


真琴とリノは青年を追うように、駆け出した。




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