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城内にいたクレスも降りかかった重圧を感じていた。ふらりと壁にもたれ掛かり、そのまま地面に腰をかけた。疲れが座ったと同時にどっと押し寄せる。
掛かった重圧によるものもあるが、高濃度のマナを浴び続けた事と倒したはずの人物がまた敵として前に立った事だった。最初に見た時は頬に歪な印は無かったのだが、次に見た時は頬に歪な印。どれだけ倒しても起き上がり、迫ってくるのだ。
一人で城内を駆け回っていたのもあり、一人でどうにか応戦するも、体力の消費は尋常ではなかった。共に中に入った者たちも別の場所で応戦していたようだが、これ以上は危険だと判断し、城内から去っているものも多かった。
「やべぇな…、急いで、これ、止めない…、と…」
マナがこのまま放出され続けるのは大分痛手である。窓から見える結界も、限界が近付いているように見えた。だがそれを確認したその直後にガラスが割れたような音が鳴り響き、結界が崩れ落ちるのが分かった。
「アレル…!」
ふらつく体をどうにか立ち上がらせて、廊下を走り出した。結界が壊れたという事は、少なからず約束の時間には満たないものの限界が訪れてしまった事、そして高濃度のマナが街中に放たれてしまうのだという事だ。一刻も早く、止めなければいけない。
あと見ていない場所は一つしかない。地下に繋がる二つ目の階段だ。一つ目は地下牢に繋がっているのはわかる。ただもう一つの階段はまだ一度も訪れた事はない。可能性があれば、その場所だ。
必死に走った。階段を駆け下りる。
鉄でできた重い扉を開けた。中央に設置されているのは、大きなオーブ。異常を来たしているのか、不気味な色合いをしていた。だがそこから、マナが放出されているのが一目でわかる。近付くにつれて、息苦しさは増す一方だが近付いて止める以外に方法はない。
オーブの周りに何かがないかを探した。スイッチのようなものは、ない。
「壊すしか、ねぇか…」
サーベルを振り上げて、オーブに突き立てる。だが思ったよりも硬く、大きい所為もあって小さな罅しか入らなかった。何度かそれを繰り返すも、思ったような外傷は付けられない。
「っ、ここで使いたくはねぇんだけど…な…」
クレスは自嘲的に笑った。足元に魔法陣が浮かぶ。やはり負荷が大きいようで、唇を噛んだ。広げた掌を上に上げ、腕を勢い良く振り下ろす。一筋の雷がオーブに落ちた。激しい音と共にオーブの動きが次第に落ちてくる。そして完全に機能が止まりマナの放出が止まった。
呼吸に合わせて肩が大きく動く。達成感からかほっと安堵の息を漏らした。少ししてから立ち上がると、階段をまた登って行った。
マナが止まった事はリノも知っていた。クレスとの連絡の為に中に入ったものの、大した数中に入っていない為にどこになにがあるのかははっきりとは分かっていない。闇雲に走っている最中に、割れたような音と共にマナが次第に正常濃度に戻って行く。
「良かった…、止まったんだ…」
リノも安堵の息を漏らした。あとはクレスを探して、まだ見つかったのか分からないもののマーヴィンの娘、ミルを探すだけだ。
リノはふたたび長い廊下を駆け出す。
駆け出した先の曲がり角で人影が視界に入る。ひらり、と淡いピンクのスカートを翻し、ヒールの音が廊下を響き渡る。
「待って!」
リノはそれを追いかけた。その人物はきっと探していた人物の一人、ミルだと確信していた。
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