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同時刻。
国王、マーヴィンが救出され、リードルフ郊外ーーー騎士団待機場所へと連れ出された。
愛妻が死んだという事実がいまだ受け止めきれないようで、酷い錯乱状態だった。駆け寄り対応をする団員とすらもまともな会話が出来ていなかった。


「王様…凄い状態だね…」
「うん…、仕方ない、とも思うけど…」


真琴とリノは少し離れた所でその様子を眺めていた。
治療部隊は治療部隊で別の対応に追われて居た為に一般団員が対応をしている。手の施し様がない状態で、困った様子を浮かべて居た。

そんな時に、馬の蹄が地面を蹴り上げる音が近づいて来る。ぱたりとその音が止んだと思うと、革靴の音が鳴った。
半ば焦った様子で銀髪を揺らしながら真琴達へと近づいて来た。


「すみません、私が不在中に最悪の事態が訪れてしまったようで…」
「ヴァレンスさん…」


ヴァレンスは今の今迄仕事があり、リードルフから離れていたのである。急な連絡に仕事を取りやめ戻ってきたのだが、事態は大分深刻になっていた。

ヴァレンスの姿を発見した団員は彼に駆け寄り、会釈をする。


「急なご帰還、お疲れ様です」
「挨拶は今はいいです。状態の説明をお願いします」
「はい、現在クレス率いる小隊4隊が中に入ってエイミリー様殺害の犯人との対戦及び捕縛と、城から放出される高濃度マナの停止方法を散策中です」
「この城の周りを覆ってる結界は…」
「アレルが、一人で貼っています」


これだけの物を、と驚きの声を漏らした。その後少しの間考え込むとマーヴィンの元へ駆け寄った。


「マーヴィン様、私が不在であり力をお貸しする事が出来ずに申し訳ありませんでした。犯人は必ず、捕縛致します」
「……は」
「?」
「娘は…、私の娘はどこだ!?」


ヴァレンスの両肩を掴み、必死になって訴える。アイコンタクトを他の団員に送るが、左右に首を振った。"見つかっていない"のだと察する。


「まだ見つかってはおりませんが、中に居る団員が探している最中かと思われます。必ず、見つけ出しますので暫しお待ち下さい」
「‥必ず見つけ出せ…、妻にプラスして娘まで居なくなっては…私の心が保たぬ!必ずだぞ!!」
「……、はい」


ヴァレンスは小さく微笑み、掴んだ手を降ろさせると団員の前に立つ。


「事態は最中です、寝ていない状態で疲れているのは重々承知の上ですが、治療部隊は怪我人の治療を急ピッチで、騎兵部隊はこれ以上長引くようなら突入します」


はい、と声が重なり持ち場に着く。
流石は筆頭と言った所だろうか、言葉一つ一つに力強さを感じた。


その瞬間、城の周りに貼られた結界が一瞬だけ大きく波打つ。低い音が街中に鳴り響き、視線は一斉にそちらへと向いた。


「…!?」
「結界が揺れた…随分と不自然な揺れ方ですね…」
「不自然?」
「えぇ、普通に体力的な問題でしたらこんな揺れ方はしないんです。次第に結界が薄れて行く筈…ですが、揺れにプラスして疎らに薄くなったり厚くなったり…アレルの身に何かが…」


ヴァレンスの言葉を聞き切る前に真琴は走り出していた。波打ちが始まった場所がアレルのいる場所。リノがそれに気付いて呼び止めるも、その声すら聞こえていない様子だった。追いかけようと、足を踏み出し掛けた。


「リノ」
「……、何よ」
「貴女は、城の中に向かって下さい」


呼び止めたヴァレンスの言葉にリノは驚きを隠せなかった。


「真琴一人で向かわせる訳にはいかないでしょ!?何言って…」
「今、クレスとは連絡が取れません。そして下手に大量の団員を中に入れるのは得策ではない。貴女なら、貴女程の実力者ならば中に入ってクレスと連絡をとって欲しいのです」
「……」
「貴女は天才と呼ばれた魔法使いだ、ある程度マナの濃度に耐性はあると思います。貴女の実力を見込んでの事…お願い、できませんか?」



リノは暫く黙り込んだ。
真琴とアレルが気になっているのだが、中に居るクレスも気になる。自分にしか出来ないことなら、答えは一つしかない。



「あたし、あんたの事信用し切ってる訳じゃないよ。でも、あたしにしか出来ないなら、あたしは行く」
「ありがとうございます、リノ」


リノはぶっきらぼうにそう告げると踵を返して、城へと向かった。




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