5


始まってからどれほどの時間が経ったのだろうか。
辺りはまだ暗闇に包まれており、時折吹く風が肌寒く感じた。


その場から殆ど動いて居ないものの、酷い疲労感がアレルを襲った。心臓の脈拍が早く、呼吸のペースも早くなった。
3時間、と見積もったものの多く見積もり過ぎてしまったと後悔を感じる。だが言ってしまった以上保たせる以外の方法はない。オレンジ色の胞子ーーーマナが結界に触れる度に空中に出来た魔法陣が揺れた。触れたときに発する雷に僅かに痛みを感じる。


「まだ…、なのかな…」


中で手こずっているのだろうと自己解釈をするものの、刻々と近付く"今の"自分の限界に焦りを感じ始めていた。

すると、ふと、後ろで草が揺れる音がした。風の所為ではなく、意図的な揺れ方。それに気付いて視線だけを後ろに向ける。
そこには深く俯いた護衛に当たっていた団員の一人。ゆらゆらと覚束ない足取りでアレルに近付く。



「……?どうした、大丈夫…?」


魔法陣から手を離し、団員に近付く。頭の中でその魔法陣を描く為の"公式"を思い描いていれば、魔法は発動者に何かが起きない限り発動され続ける。それを応用すれば二つの魔法を同時に発動する事も可能だった。


あと一歩、二歩分と近づいた頃。
深く俯いていた頭が上がると同時に、サーベルの刃がアレルの顔のすぐ隣にあった。


「!?」


間一髪で避けるが、刃先が頬を掠めて浅い傷をつくる。アレルはサーベルに手を掛け、体勢を立て直した。

光を映さぬ虚ろな瞳。
右の額から首に掛けての歪な印。
歪んだ笑みを浮かべて、アレルを見ていた。


「…その印…、お前…!」


全てを言い切る前に切りかかってくる。引き抜いたサーベルで刃を受け流すが、容赦無く降りかかる刃の所為と長時間の魔法と今も尚貼り続けてる結界で体力は然程残って居ない。防戦一方だった。


「っ、いい加減にしろ!"使われてる"どころじゃ…!」


必死に訴えかけるも聞く耳を持っていない。アレルは唇を噛み、足元に魔法陣を描かせると魔法陣内で巻き上げるような風が発生する。強い突風で団員が離れた所に吹っ飛ぶ。
陣が消えたと同時にどっと疲れが押し寄せた。二重に発動したが故の疲労だった。呼吸と共に大きく肩が動く。


一旦サーベルの構えを下ろした途端に、僅かな気配を後ろで感じた。
アレルの後ろにもう一人、先ほど襲いかかって来た団員と同じ状態の団員の姿があった。
直ぐに距離を置き、自分の背に結界の魔法陣を置くような体勢になる。
いくら思い描いていても、陣を割られてしまえば意味など成さない。この状態ではどうにか守りつつ戦うしかなかった。


吹き飛んだ団員もゆらりと起き上がり、再びサーベルを構えた。
また別の木々の隙間からもう一人。

計3人。

護衛に当たっていた全員が、アレルに刃を向けた。


全員が全員、同じ状態。
歪な印が嫌と言うほどに強調された。



「っ…、何でよりによって…!」



後ろに魔法陣がある以上、下手に動けない。
自らの手で自分を追い詰めたような気がして、言葉を飲む。

この三人を倒すのが先か、アレルの体力が限界を迎えるのが先か。
考える間もないまま、3人は一斉に地面を蹴った。



[ 92/195 ]

[*prev] [next#]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -