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人が、忙しなく交差する。
人も車も決まった規則に沿って右に左に、進んでいた。
だがその空間に自分が入っているわけでは無い。その空間を、まるで別の人の姿を借りて見ているような目で眺めていた。
高い場所から見下ろす世界は、広いけれどどこか狭く感じていた。

体に打ち付ける風は心地よく、セミロングの茶色い髪が風にふわりと靡く。
彼女の目に光は宿っていない。
何を考えているのか、彼女自身も正直良く分かっていないのではないだろうか。

全くの他人から見れば、彼女は落ちようとしているのだろう。

高い、高い場所から。
真っ直ぐ、真っ逆さまに。


(この世界から、居なくなりたい)
(こんな世界に居て、良い事なんてない)

そんな事を考えながらただ呆然と立って居た。
彼女は学校で何か問題があった訳でもない。ただ願っていた。


この世界から居なくなったら、どれだけ楽だろうか。

愛する事もない。
愛する事を知らない。
愛情を知らない。
愛する人もいない。
守るべき物も、何も持っていない。

この世界で生きていながら、
生きている上で大切な物を全て持ち合わせていなかった彼女はまるで人形のように空っぽだった。
もしかしたら人形の方が人間らしいかもしれない。

どこか世界から切り離された少女。
彼女が願う唯一の願いが"それ"である。

"死ぬ事"に恐怖も湧かない。
"死"すらもよく理解出来て居ないのかもしれない。

"消える"事が出来るのなら。
自分には分からない"何か"に対しての気持ち悪さを感じずに済むのなら。


今直ぐここから消えよう。

彼女は一歩、前へと進み、消える事を選び取った。





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