くずれおちる


「ナマエさん、シンさんが呼んでいるので…」

牢を開け、呼びに来たのはマスルール様であった。きっとこれから私は色々なことを聞かれるのであろう。
聞いたところで彼らは一体、私を信じてくれるのであろうか。多少の期待を持ち案内された部屋に入る。

中に入ると昨日のメンバーの王と八人将、そしてあの女マリア。
彼女は私を見ると震えだす。震えだした彼女をみて周りは心配の色を見せるが何故彼らは気づかないのだろう。彼女は怖くて震えているのではない。笑いをこらえきれなくて震えているというのに

そして彼女に気付くことはなく王は話しだした。

「ナマエ、昨日の事だが何故やったのだ?」
「早く言った方がいいですよ」
「昨日も言いましたが、私はやっていません」

私の言葉を聞いてか、シャルルカン様は拳を机に叩きつける。私はビクッとなったが、彼は叩きつけたまま、何も言うことはなかった。王に口止めをされているのであろうか。
王は難しい顔をして続けた。ジャーファルさんも表情が読めない。

「マリア、辛いかもしれないがすまない。ナマエ、では俺から言おう。お前は以前からマリアの存在が憎たらしかった。彼女とすれ違うたびに暴言を吐き、それでも辞めないマリアをどうにかしてやろうとしていた。そして昨日廊下で待ち伏せして剣で脅し、しまいには刺した。これでいいな?」

有無を言わせない形で言われたが、肯定する訳もなく、こんな嘘で固められた話に私はただ、違いますとしか言うことが出来なかった。なんで彼女の言うことばかり信じるのだろう。私の言葉は誰として聞いてくれない。

「私は、本当にやっていません。私は、昨日…」

その先は今まで黙っていたシャルルカン様によって遮られてしまった。

「いいかげんにしろよっ!!そんな嘘誰が信じるのかよ」

「私は嘘をついていません。魔法でも何でも使っても構いません!本当なんです!信じてください…」

ヤムライハ様の魔法なら私がやっていなくて嵌められた事をきっと、証明してもらえる。そう思いヤムライハ様を見るが、天は私に味方してくれなかった。
すすり泣く声。その正体はマリアで、彼女は自分を抱きしめ

「私、魔法を使って昨日の事を思い出すなんて……辛くて耐えられません…」

ばれるのがわかったのか、いきなり嘘泣きをし始めた。すると私の頼みの綱であったヤムライハ様は

「マリア……。彼女がこんなになっているというのに私に魔法を使えですって!?考えられないわ。あたかも自分はやってないかのように言って…おかしいわよ。」

ヤムライハ様も私を信じてくれるどころか怒らせてしまったらしい。冷たい言葉を投げて、マリアに「あんな嘘つきになんか魔法を使うまででもないわ」と言っている。

苦しい。誰からも信じてもらえず。貰うのは嫌悪感。どうして私が。
そして傷ついた私を更にどん底に突き落とされる言葉を王から発せられた。

「あくまでも、しらを切るつもりだな。もういい、ナマエ。お前には失望したよ。恩を仇で返すなんてな。」

私はこれを聞いた瞬間、今までためていた私の中の何かが音を立て、崩れるのを感じた。彼らは、これっぽっちも私に耳を傾けてくれるのもなく、責める。
こんな国にいる必要はない。なぜなら私は必要のない人間なのだから。
すると私はすんなりと声が出た。

「勝手にそう思ってください。いらない私はもうこの国から出ます。今までお世話になりました」

そう残し、何かを言っている彼らを背に部屋から出る。
一刻も早く私は王宮からでなければならない。身支度を整える訳でもなく、その身一つで王宮を出た。なぜか止まらない涙と一緒に。
この涙はなぜ流れているのだろう。そんなことも考えたくなくて私は知らぬふりをする。

この涙が止まったらシンドリアのことは全て忘れよう。全て一からやり直そう。

「あーー……もう!!あんなところ、こっち…から、願い下げよ………」

だから今は泣かせてください。




涙が止まった頃、そういえば追手が来なかったなーと思いつつ、シンドリアのはずれに来た。

「これから何をしよう…」

今私は身一つしかなく、誰か私を乗せてくれる船を探さなきゃならない。
シンドリアから出たら何をしようか。私はもともと侍女よりも武官がやりたかったくらいだし、旅に出ようか。それとも迷宮攻略にでも行ってやろうか。現実から目を背けるかのようにずっと考え事をしていたため、上に人がいることに私は気づいていなかった。


「おっ!おもしろそーな奴、みーっけ!!」



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