歪んだリップノイズ 2/2 |
私を地下牢まで連れてきたのはジャーファル様だった。彼は黙ったまま私を牢に入れ、鍵を閉めた。 「明日、先ほどの出来ごとについて話しがあります。それまでここにいてください」 今まで一言も話さなかったジャーファル様はそれだけ言い、出て行った。しかし、彼の私を見る眼は汚らわしいものを見るようなものであったので彼もまた、私を信じてくれないのだろう。それに彼はシンドリアに害を為すものは容赦ない。 牢に入ったところで私は何もすることがなく、さっき起こった事を思い起こした マリア。彼女がシンドリアに来たのは最近らしく、他の侍女から八人将の方々、しまいには王にまで媚を売っていると愚痴を零していたのを聞いていたため知っていた。 私は彼女が媚を売ろうが何しようが侍女として与えられた仕事をやっていればどうでもよかったので、関わったことは一度も無い。 しかし、彼女はそうでなかったらしい。そして知らぬ間に物事は進んでいた。 今朝、頼まれた買い物から帰ると私の部屋に何者かが入った跡があり、何か盗まれてはいないか確認したところ、私の剣が一つなくなっているのに気がついた。 私は侍女ではあるが、一応、双剣使いであり、人が足りない時には一緒に戦った事がある。そのたびにシャルルカン様と手合わせしたりして「お前は侍女より武官のがいいんじゃねーの?」とか言われていたような。 まあ、それはさて置き、その双剣の一つだけが無くなり、おかしいと思って探し始めた。 部屋の中にはなく、やむなく宮内を探すことにしてすれ違った侍女にも心当たりを聞くがやはり知らず。 探し始めて何十分。仕方ないから仕事に戻ろうとしたところでマリアが声をかけてきた。 「ナマエさーん、あなたが探しているのってこの剣でしょ?」 「…!そうです!でもなぜあなたが?」 私の剣を持っていたのはマリアで、不思議に思いそう聞くと顔を酷く歪ませた 「これからあなたがここに居られなくなるようにするため」 「はい?」 呆然としている私に彼女はさらに怒りを浮かべた表情で 「だってね、あんたがいると邪魔なんだもん。みんな私じゃなくてあなたばっかり頼るでしょ?王も、ジャーファル様もみーんな!!そんなのおかしいじゃない」 私はさっぱり理解できず、何故か怒っている彼女を見ることしかできなくて。でもすぐに、事件は起こった。 「だからさ、シンドリアから出てってもらおうと思って。私があなたの人生をめちゃめちゃにしてあげるから」 そういうが否や、私の剣を彼女はそのまま自らの腕に突き刺した。 驚き、声も出ない私に「剣、ありがとっ!」というと 「キャーッ!!」と奇声を発した。 すると私たちからそう遠くない部屋から出てくるシンドバッド王と八人将の方々。 この瞬間、私はこの女に嵌められたのだと理解した。 この状況を作るためにマリアは私がここに来るのを待っていて、会議がこの部屋でやっていることを知っていて、悲鳴を聞きつけ部屋から出てくる皆さんの前には血濡れた剣を持つ私と震えて腕を抑える彼女。全ては彼女のシナリオ通りなのだ。 自分で自分を刺すなんて正気の沙汰でない。ここまでを思い出し、私は大きなため息を吐いた。 私がやっていないと言ったところで皆は信じてくれるのだろうか。 無実を証明することは限りなく―――ゼロに近い。 |
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