永遠なんて、あるのだろうか


私は目の前の光景――恋人であったはずのシンドリアの政務官ジャーファルさんと、文官の人であろうか、私の知らない女性が抱きしめ合っているのを見て、怒りよりも悲しみがこみ上げて来た。

だからと言って、この状況に臆病な私は何も言うことが出来ず、その場を背にして歩き出した。いうならば、この現実から目を背けるかのように……

考えてみると、そもそも可笑しいのだ。片や、八人将で王の右腕。そしてもう一方の私はというと、ただの侍女であってそれ以上も以下もないのだ。

それもあって他の侍女からも、ジャーファル様とつり合わないのよ!とか、辞めて欲しいとか嫉妬を頂いていたけれど、それもこれもジャーファルさんがいてくれたから、耐えられていたのだ。
それが無くなった今、私はどうなってしまうのだろう。他の侍女からの悪口は収まり、辛さから解放されるのだろうか。それならいっそのことーー


その後、さっきのことは私の勘違いかと錯覚させるほど、いつも通りのジャーファルさんを目の前にし、私はどう接すればいいのかわからなかった。ここで文句の一つでもいえたらいいのに……

「名前、顔色が優れませんがどうかしましたか?」
「いえ…、本をずっと読んでいたからですかね」
「名前が本を好きなのは知っていますが、それで倒れられては元も子もありませんよ」

ほら、やっぱりいつもの優しいジャーファルさんなのだ。だから私は聞いてみる

「ジャーファルさんは今日、お変わりありませんか?」
「今日ですか?いえ、特に変わらずいつも通りですよ」

ジャーファルさんにとって今日のことはいつも通りのことなのだろうか。どんどん悪い方に進んでいく自分の思考に内心苦笑いを零し、以前ジャーファルさんから頂いたバラの花にふと目線がいった。私の視線に気づいたのかジャーファルさんもバラの花を見て

「あのバラの本数いくつだと思いますか」
「えっと…」

考えている私に微笑みながら彼は言う。

「50本なんですよ」
「ご…50本!?」


驚く私にジャーファルさんは「では、失礼しますね」と文官の仕事をしに行った。
でも何故バラの本数をわざわざ聞いたのだろう。そういった疑問を感じつつも、ついでにバラの入っている花瓶の水を換えようかと部屋を出たのが間違いだった。



やはり、何度目をこすっても私の目の先にいるのは、さっきまで一緒にいたジャーファルさんと、さっきの女性。そして重なっている影ーー唇。私は思わず花瓶を落としてしまった

その音に気付いた2人は音のした場所である私をみた

「名前っ!!これは、その……」

私はジャーファルさんの言葉を聞きいれることはなく、割れた花瓶、散らばったバラ、呆然としている2人を背にして歩き、やがて小走りになりその場から逃げた。
目から流れる涙は、まるで散らばったバラの悲しみであるのだろうか、止まることはない。

「名前!!」
「離してください!もういいですから!!」

腕を掴み、動きが止まったが、私はジャーファルさんと話しもしたくなかったし、触れてもほしくなかった。

「なにも良くない!私はあなたに言わなければならないことがあるのです」
「別れようですか?」
「は?」
「だってそうでしょう?さっきは私の勘違いかと思って言いませんでしたけどやっぱりそうじゃないですか!抱きしめて、キスしてるの見て、私はなんて言えばいいんですか?」


自分で何を言っているのかわからなくなる位ゴチャゴチャになっている頭では、今の状況が到底理解出来なかった。なぜならジャーファルさんが私を抱きしめているから

「すいません。私の話しを聞いてください。」

そして私が聞いたのは、ジャーファルさんに好意をもっている方がいたこと、恋人がいるから諦めて欲しいと言ったこと、一度だけでいいからと言われて、抱きしめられたこと。
これで諦めるかと思っていたら、キスをしたら諦めると言われたが、さすがにそれは私がいるのに出来ないと断ったら無理やりして来て、その現場を私が見たということだったみたいで。私は怒りとかよりも安心した。彼は彼女を好きでないのだから。


「私が馬鹿だったのです。名前がいるのに、私だけで解決しようとして結果こんなに名前を傷つけてしまった。謝っても足りません。でも私はあなたを愛しているんです。別れたくないし、ずっとそばにいて欲し…!?」

私はジャーファルさんの言葉を最後まで聞かずに口づけた。その時は言葉よりも先に動いてしまったと言った方が正しい

「よかった……てっきり私に愛想を尽かしてしまったのかと思いました。キスしたことは妬きますが、今私がしたから忘れます。だって私はジャーファルさんが大好きなんです」

そう言うが否やジャーファルさんは私を強く抱きしめて、何度も何度も彼の唇が降ってきた。


「さっき話していた50本のバラですが、意味があるんです」

唇が離れると彼は言った。


「 恒久(こうきゅう)
     あなたを永遠に愛しています。」



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