小説 | ナノ



彼がジュダルであるということをジャーファルから聞き、ユリは彼に対して怖いという思いよりも、どれくらい彼は魔法を使えるのかという気持ちの方が強かった。魔法が使えるという同族がいたことに対する嬉しさが多少なりともあったのは当の本人しか知る由もない。それにユリ自身、彼は悪に染まるというよりもただの好奇心に過ぎないのではと考えていた。元の世界では監督生という寮の人たちをまとめる立場にいたため、子供の考えはある程度理解できるのである。

だからと言って関わるかとなるとまっぴらご免な訳で、おとなしく見ていることにした。但し、なにも無ければの場合だ。このとき感じていた嫌な予感は残念なことに当たってしまった。

何故かマギどうしの戦いになっていたのである。
ジュダルの繰り出す氷魔法を見て、このような使い方もあるのかと関心していたのもつかの間、その氷はこちらに向かって降り注いできた。
このままではみんな凍ってしまうだろう。そう感じたユリは魔法をとなえる事はなく無言で杖を振った

すると、こちらに向かって来た氷は瞬く間に燃え上がった炎に溶けて無くなった。

「は? 今の炎出した奴誰?」

アラジンとやり合っていたジュダルが一旦やめて問うが誰も答えない。ユリもスルーしている。その横にいたジャーファルが小声で
「今のはユリですね?」と聞いてきたので頷く。シンドバッドも気づいているみたいで言わなくていいと目で合図してきた。
このまま無視を決め込んだユリだったが、ジュダルが霧の団の1人を捕まえて

「おい、誰がやったんだ?」
「あ、あの人です…」

脅すものだから捕まった彼が指した指先にユリがちゃんといたため、気付かれてしまった。まさか見られているとは思ってもいなかったので、すいませんシンドバッド王と思いつつジュダルを見る

「へえ〜、お前魔法使いなんだ」
「まあ…そうですね」
「俺の出した氷を簡単に消し去ったのお前が初めてだからさー……」

なぜか言葉に詰まっているマギ、ジュダル。知らないユリはまだしも、シンドバッド達は珍しいものを見るような目をしていた。それもそのはず、こんなジュダルを見たことがないからである。彼はいつも放漫で戦争が好きで強い奴にしか興味がないのである……強い奴にしか興味がない?――強い人間が好き?

まてよ…と、シンドバッドとジャーファルは顔を見合わせジュダルを見る。彼は強い人間といってもシンドバッドや紅炎という男しかいなかった、女は弱い生き物であるくらいの発想しかなかったはずだ(紅玉などはどちらかというと友情)。
しかし、ユリは?シンドバッドでも一度魔法を見ただけで強いという事が理解出来たぐらいである。魔法使いのジュダルがわからないはずもない。
もしかして、もしかするのか?その2人の気持ちを代弁するかのようにジュダルは続ける

「名前は…なんていうんだ?」
「ユリです。あなたはジュダルさんですよね」
「!!ああ。ユリっていうのか…。あ、俺の事はジュ…ジュダルでいいから」
「わかりました。ではジュダル君で」
「おう…。なあ、ユリ。お前さ、煌帝国に来ないか?」
「煌帝国ですか、あーでも…」

そんなユリに助け船をだしたのはシンドバッドであった。

「ジュダル、悪いがユリはシンドリアの食客だ」
「は? シンドリアの食客っ!?そうか…シンドリアねえ」

今までの表情は何処へやら。今のジュダルはもはや悪人レベルである

「ユリっ!俺がこいつらぶっ飛ばしたら煌帝国にこいよなっ!!」

ユリの返答も無しに再開してしまったマギ同士の戦い。

「どうしよう…」
「今のジュダルは止められない」
「シンドバッド王…」
「それにしても驚いたが…な、まさかあのジュダルが…いや、こうなる気はなくも…」

1人でうんうん言っているシンドバッドを背に、ユリは一抹の不安を覚えた。誰に対してかはわからないが、その不安は的中。暴走したアラジンのジンによってジュダルが止めを刺されそうになったからだ。
しかし、ユリは何者かがジュダルを助けたのが見えたのでそのままにしておき、魔法でジンの近くにいた皆を浮かせ、避難できる場所まで連れて行き、空を見上げる。正しくは空に浮かんでいる大きな絨毯を見ながら

「めんどくさくなりそうだなー…」

ボソッと言ったのを気付くものはいなかった



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