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結果は言わずもがな、シンドバッドの圧倒的な力を前に為すすべもなく、アリババは膝をつく。
ユリは、剣での戦いというものを見たのは初めてだったので心をくすぶられていた。魔法も実力主義であるが剣ほどではない。才能も勿論あるが努力というのもやはり大事なこと。この2人を見て自分は魔法に頼り過ぎだと感じてもいた。だからと言って今から剣をやるかと言われても答えは否や。

そしてもう一つ大切なことが、今更ながらある。

ユリは、シンドバッドたちが、どのような経緯でこの争いに関わっているのかという大部分を知らずにいた。それもそのはず。ここに来る前にヤムライハから、面倒なことに首を突っ込んでいることしか聞かされていなかったからだ。

シンドバッドとドレッドヘアー軍…―霧の団との掛け合いで、多少ここの状態を感じ取り、少ない情報ながらも、ユリは自分なりに考えていた。
そうこうしているうちにも話は進んでいき、ユリが気づいたころには

「ジャーファル君、お前はなんって冷酷な男なんだ!!」
「えっ… ええっ!?」

シンドバッドのジャーファルへの怒声がかかっていた。ユリは状況を理解しきれていなかったが、とりあえず気落ちしているジャーファルに声をかけた。

「ジャーファルさんは優しい方です」
「え?」
「あ、すいません。私なんかが言ってもって感じですよね」
「いえっ!そんなことは…」

心なしか顔が赤くなっていたジャーファルだったが、すぐにその表情は強張り、今にも人を殺してしまいそうなほどの殺気を出したかと思えば、そのまま、カシムに襲いかかった。

ジャーファルは誰よりもシンドバッドへの忠誠心が高い。シンドバッドを貶すような事があればそれこそ許されない。カシムはそんなことも構い無しにジャーファルのお怒りに触れてしまったのだった。
ユリはああいった状態のジャーファルを見たことがなく、確かにユリが来たばかりの頃は怪しまれてはいたものの、ここまでではなかったので、目を丸くし、事の成り行きを見ていたが、ついにジャーファルがカシムに向かって彼の武器を降り落した。

が、それはカシムに当たることはなかった。なぜならシンドバッドが素手で握るように抑えたからであり、彼の手からは血が流れ、それを見てジャーファルは我に返った。

ユリもシンドバッドの元に行き、その手を出してもらい応急処置として

「エピスキー(癒えよ)」

治癒の魔法をかける。すると傷口は塞がっていき、跡形も無くなり、痛みも消えた。

「ユリの魔法はいつ見ても不思議だな」
「ユリ、シンもすいません」
「いえ、私はやれることをやったまでですから」

この一連の流れを見ていたアラジンはマスルールに言った

「ジャーファルおにいさんは、ちょっと怖い人だったんだね。」
「まぁ、時々……」



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