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「シンドバッドおじさん!」

青い小さな男の子がシンドバッドの事をおじさんと言っているのに幾分か違和感を感じつつ、ユリは1人笑いをこらえていた。
相変わらずユリの存在に気付きもしない彼らだったが、本人はそれでいいと思っていた。特に問題が起こらないのならばユリは何もする気はなかったし、何かあれば勿論力の限り手助けはしようとしているが、今は平気だろうと傍観していた。
そしてこの騒動が終わったらシンドバッドの元に向かえばいいだろうと、自己完結をし、黙って成り行きを見守る。

「さすがに数が多いな……マスルール!」

シンドバッドがそう言うや否や、マスルールは沢山いた霧の団を次々と倒していった。
ユリは何だかんだ、初めてマスルールの戦闘を見たので「強い…」とこぼし、そうこうしているうちに、カシムの持っている剣から黒い霧がでて、その霧は瞬く間にシンドバッドを拘束した。

しかし、ユリはジャーファル達がいたって普通だったので、自分は助ける必要がないと手出しせずに見ていた。手に杖を持ったまま。

するとやはりシンドバッドは自ら黒い霧を溶かし、ジャーファルは言う。

「言ったでしょう?七海の覇王シンドバッドは…不思議な力に馴れているって!」

「おおーっ」と感嘆していたユリだったが、表情が一変した。霧の団の1人が、先ほどの小さい男の子を人質にしようと刀を出しているのが見え、ユリはそいつに向かって杖をふった。

「インぺディメンタ(妨害せよ)」

ユリの杖から一直線に男の元に光線が向かい、当たるのと同時に吹き飛ばした。
ここにいる全員が吹っ飛ばされた男を見る。何だ!と。

ユリが助けた、その青い髪の男の子――アラジンは、吹っ飛ばされた男を見て驚き、ユリを見て一言。

「おねえさんがやってくれたの?」

今ので目立ってしまったユリは座っていた柵から降り、頷く。
そしてアラジンの元に歩みを進めた。

今更だが、シンドバッドたちが気づかないのにも理由がある。なぜならフードを深くかぶっていたからだ。それなのに自分が女だということに気付いたアラジンに、違った意味で驚かされていた。

かなりの注目を集めているユリ。当の本人は、やっちまったーと、内心焦りつつ目の前にいるアラジンに言った。

「驚かせちゃってごめんね、あなたの事を人質にしようとしていたのが見えて…怪我はないかな?」

その言葉を聞いたアラジンはにっこり笑い

「そうだったんだね、ありがとう、おねえさん!」と言った。

ユリもアラジンに笑いかけ、くるりとシンドバッド達の方を向き、怪訝な顔をしている彼らに、フードを取った。

「応援に来ました、ユリです」

ユリの事にやっと気付いた彼らはポカンとしていて、ハッと我に返ったシンドバッドは、ユリなのか?と確認を取り、頷く。ジャーファルはというと、何故ここにいるのか聞こうとしていたが、シンドバッドが片手で制する。

「ユリに聞きたいことはたっくさんあるが、まずは……――怪傑アリババ君。君を倒さねばならぬな」

シンドバッドはアリババに向かって言い、ジャーファルも我に返りアリババを見る。
ユリはと言うとマスルールとこそこそ喋っていた。

「なんか、寒気が……」
「こればかりは仕方ないっす。あのジャーファルさんを……」
「こら! そこの2人うるさい」
「「はい……」」





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