着くと見なれない景色。
思った事は、シンドリアとの大差であり、シンドリア以外を見たことのないユリはシンドリアが裕福な国であったのか、それともこの国が極端に貧困であったのか周りを見渡し考えていた。
そもそもユリが姿現しによって来た場所はスラムだったのでそう思い込んでいるだけだが、そう思っても仕方がないほどの荒れようであり、顔には出さぬが驚いていた。
とりあえずシンドバッドたちと合流しない限り何をすればいいのかわからなかった為、右も左もわからないバルバッドの地を歩きだした。
箒で行こうという考えもあったが、ちらほらと人の姿が見えたため、むやみやたらと目立つことは得策ではないと、仕方なく歩くことにしたのだった。
とはいえ、ローブを着ている時点で普通に目立っているのだが……
そこでふいに聞こえた話声にユリは耳を傾ける。
「アリババが、シンドバッドたちがいるところに拉致られた。早く行くぞ」
「カシムッ! 人数は」
「出来るだけ沢山だ。俺は先に行く」
シンドバッドがアリババという人を拉致?よく意味がわからないことだらけだがシンドバッドといえど1人しかいないはずだと思ったユリは、カシムと呼ばれた人の後を着いていこうと姿を消した。
――正式にいうと変身した。
その姿はこの世界にはいないのかもしれない。
大きな翼をはためかせ、鋭い爪と嘴(くちばし)。
鳥類のトップに君臨する鷹(タカ)。その姿であった。
アニメ―ガス。この能力を持つ者は、特定の動物に好きなときに変身することができる高度な魔法である。当人の資質に最も近いものとなるのだが本人いわく空飛べたらなーと思って練習していたら鷹になれたとのこと。
どこからどう見てもユリの面影はない。
そしてユリは静かに空を飛び、暗闇に紛れ込む。勿論カシムに感づかれない為であり、一定の距離を保ちシンドバッドの元に向かうカシムを追いかけ、カシムは途中で仲間に合流していたもののユリに気づくことはなかった。
10分くらい経つとそこそこ栄えているところに出た。ユリはさっきの場所がスラムだったのかと納得し、カシム達が入って行った高級そうなホテルの中に続いて入らず、屋上に飛び、例のカシムの仲間であろう、いかにも悪そうなやつらが沢山いるところにいた。
ユリは、必ずここに来るだろうと感じていた。
ここのが効率がいいだろうし、ホテルの中で1人1人相手にするよりも、まとめてやろうとシンドバッドは考えるに違いない。
状況が理解できないユリにとっては、ここで魔法乱発するよりも傍から見ているので十分だろうとシンドバッド達が来るのを待つ。
すると間もなくカシムがやって来た。黄色い頭の人がさっき言ってたアリババかなーと悪そうには到底思えない人がカシムに連れられ、後から2人の子供が来た。
「来やがれ化け物女!!」
男どもは15歳いってないだろう女の子に対して悪びれる様子も無く言い放ち、ユリはあの少女が化け物なんて思えず、もし何かされたら助けようと思ったが、それよりも先にピシッという音が聞こえ、床から3人の男が天井を突き破り出てきたのだった。
「アラジン、大丈夫か」
ユリは変身を解き、「私、来る必要あったかな」と生き生きしている彼らを背に、柵に座りながらボソッと言っていた。
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