平和島静雄の日記(ふじさわさまへ)

平和島静雄は毎日絵日記をつけている。日記ではない。
 小学生の時に連れて行かれた精神科医の医者に内観療法だなんだと言われて始めた物だが習慣になってしまっている。
 【今日一日、何をして、何故そうして、今後どうしていきたいか】を書く。静雄の場合は主に暴力についてだ。
 『きょうは、●●君がおれを化け物って言ったから、机を投げてしまいました。化け物と言われて悔しくて悲しくて怒ったからです。●●君も悪いけどあばれるのはいけない事だと思っています。とりあえず、あやまりに行きましたが、●●君はおびえて口もきいてくれませんでした。おこる前におはなしができるようになりたいです』
 『きのうあばれたからほねが折れていました。ねつも出ています。とっても苦しいです。きょうもびょういんです。びょういんはたいくつです。ほねをおってばかりだから、左手で書くのが上手くなってきました。りょうてで書けるようになれたらいいな』
 そういった内容が続き、高校の頃には請求書の類が添付されている。
絵には、ある日を境に被害者は書かれていない。
居るのは、静雄と瓦礫と病院の絵だ。
 時折、涙や手に着いていたのか、掠れた血で読めない個所もあるし、書いてる内に気が高ぶったのか最後の方は悲鳴を上げる様な線になり果てた日記もあるが一日も休まず続いている。
 それが、高校に入り黒い物が書かれ始めた。
今まで自罰的だった日記に『あいつが悪い』『あいつを殴れるようになりたい』と、暴力的な表現が目立ち始めた。この日記の変化に精神科医は危惧を覚え、この黒い物に対しての考え方を変える様に…又は引き離す援助しようとした所を…何者かに襲われ監禁され、心がバラバラに壊れてしまった。
 日記は続行されたが、それから平和島静雄の日記は憎しみと黒い物が覆い始めた。
 それから、俗にリッパーナイトとと言われる事件直後からも変化が見られた。
 少しづつ自分を肯定する様な、自信を持った内容が増えた。そして、少しづつ被害者が描かれる様になった。
 精神科医には、その変化を吉とも凶とも判断は出来なかった。
 最近は、静雄の日記にポジティブな面で良い知人も増えたようだ。このまま、彼が幸せになればいいと精神科医は思った。



 折原臨也は平和島静雄の日記を読んでいる。
 静雄が寝ている間に忍び込み、スキャナーで取り込み電子化して持ち帰っている。
今までの分を全部。
 ソレは平和島静雄という化物の記録であり、ソレに自分の事が書かれていると酷く満足して、明日も頑張ろうという気になる。
 特に、自分と出会った日と、共犯者に仕立ててやった日は最高だ!最早腸が煮えくりかえって文字にすらなっていない。
このぐちゃぐちゃなページを見て何度ヌイタか知れない!思い出すだけでいきり勃起つ!
 一度この日記を読んだ精神科医が面白くもない事を考えたようだから他の人間の撒き餌になって貰ったけれど…その価値はあった。
 「あぁ、俺が毎日隣に書き込んだら、交換日記になるかなぁ?」
 折原臨也はデータ上の日記の隣に自分の日記を添えている。
 けれど、今は静雄の日記に臨也が登場する事は少なくなっていて、不満だ。
 「あぁ…もう、早く計画の雑事を終わらせてシズちゃんに会って、シズちゃんの頭の中いっぱいにして書いて貰いたいなぁ…」
 呟きながら、臨也はスマートフォンに落としたその日記を呼び出し、大好きなページへ…舌なめずりをして出会った日のページをめくる。
 あぁ、シズちゃん。その日、君は何を思って日記を書くんだろうね。




 平和島幽は兄の日記を読んでいる。
 「治らないから意味がない」という兄に、悪化したらどうするの、と通わせている精神科の治療の一環で幼い頃から書いているものだ。(通わせているのは、悪化を恐れたのではなく、精神科への長い通院履歴を作る事で何かあった際に心身喪失なんかを訴える為だ)
 この日記は幽が何度か書いた事もある。手を骨折した兄の為に、口頭で告げられた内容を代筆したのだ。
 そして、この日記を見れば離れていても兄の動向が分かる。
 …この日記は幽には苦痛だ。この日記には幽の事は書かれていない。幽に兄は暴力を振るわないからだ。
 だから、幽かは兄と瓦礫しかない絵の、兄の足元にそっと小さな花の絵を描く。
 そうして、少しでも兄がこの日記を見返す時に自分に気づけばいいと思う。


 平和島静雄は日記を読み返さない。怖いからだ。
 本当は日記も付けたくない、思い出したくないから。
 でも、やらなくしゃいけないからやっている。習字と絵の練習だと言い聞かせて。
 書いてから寝る癖をつけたから、日記を書くと眠くなる。だから、寝たい時に日記を書く様にしている。
 だから、静雄が日記を書き始めるのを監視カメラで確認してから新宿を出る人間が居る事を、静雄はまだ知らない。


門田京平は、一度、高校の時に静雄が落とした日記らしきものを拾って、中身を捲くった事がある。
 綺麗な字だったが、添えられた絵と文章からとんでもない狂気を感じて、1ページも読めずにすぐに閉じて静雄に届けた。
 手渡した時の、ありがとうなと、照れくさそうに笑う静雄に日記と顔を見比べてしまう。
 …あんな日記が読める人間はきっと狂ってしまってるか、よほど狂気に慣れ親しんだ人間だろうと門田は思う。
 細かい字、大きい字、色…丁寧、殴り書き、斜め、立て読み…幾層にも重なった文字はバラバラに叫んでいた。
 真っ黒に塗り潰されそうなほどの狂気。
 絵も混沌とした酷いものだった
 『ごめんなさい殺すいやだ、今日は誰をどう臨也のせいでして、見るなお前な御免なさいんか!俺はなんで殴大丈夫か?る人間が脆い妬まし俺が悪いんだい嫌いぶっ殺す!!』
 あんな日記を延々読んだら、きっとおかしくなってしまうな。

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