遣らずの雨/あさぎさんリクエスト イザシズ
町は人通りが常より少なく、風が強い
「ねぇシズちゃん!今日は台風が来るっていうのに…俺達こんな日にまで追い掛けっ子で…馬鹿らしくない?」
疾走しながら臨也が笑う。
「だったら池袋に来るんじゃねぇよ!」
ソレを追いながら静雄は叫んだ。
幾つもの路地を曲がり、静雄は不信感を抱く…追い付けないが、離されない。何故か…?
いつもなら、こんな長距離は追い掛け続けないのに、そう思った瞬間、臨也は目の前でドラム缶を引き倒す。
「!?」
急には止まれず、ドラム缶から溢れた黒い液体の上に足を乗せた途端に滑り、思わず膝と手を着き、無様に四つ這いの体勢になる。
「テメェ!」
滑る靴裏から逃れる為に、靴と靴下を脱ぎ捨て、黒い液体を飛び越えた途端に、臨也はがこちらに何かを投げた。
「シズちゃんに、それプレゼントだよ…ジッポ」
火の着いたジッポは俺の腕に辺り、ソコから発火する。
「っぐぁっ!?」
手足に着いたのは可燃性と粘性の高い液体らしく、燃え広がり手足を焼き落としていく、転がり、何とか火を消そうとするが消えない
燃料の付着していない足首から下を除き焼け落ちていく。
臨也は煤が付きながらも白い足首を並べて揃えて、静雄を足先で転がし、黒い水溜まりに近付けていく。
「っ…くしょ…臨也…やめ…」
「あはは、流石にシズちゃんは化物だね。手足焼いたら、それでショック死してもおかしくないのに…だからね、全部焼いてあげる…シズちゃん、真っ黒!」
笑いながら臨也は距離をとり、マッチを擦る。
燐の焼ける臭いと共に、暖かなオレンジの小さな灯りが灯る。
「ねぇシズちゃん…マッチの向こうに何か幸せは見えた?」
「テメェのムカつく面しか見えねぇよ」
プッと吐き出した唾はマッチにも臨也にも掛からずに落ちた。
「ふ〜ん?俺には、君のいない退屈で幸せな未来が見えるよ」
臨也が笑うと、ポツリ、と水滴が一滴天から滴り…瞬間、ザァザァと激しく池袋に降り注ぐ。
「あ〜あ、台風が来ちゃったよ…こういうのも、遣らずの雨って言うのかな?まだ俺達を引き離したくないのかもね」
黒に染められていた静雄は雨で本来の色を取り戻し始め、臨也は濡れたマッチを静雄に投げ、さっき揃えて足首を持ち、笑う。
「シンデレラの靴みたい…この足首にぴったりあう足の人でも探そうかなぁ」
臨也は笑いながら駆けていく。
「待て…臨也…」静雄は蠢き、臨也を追い掛け、地を這った。
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