給水層の人魚/イザシズ モブ様リクエスト (水槽の人魚とリンクしてる様なしてないような…)

アレは、臨也と家で(新居で同棲をはじめた訳だ)ポニョを(知らない奴は人魚姫を思い浮かべてくれ)見ていた時だ。
 臨也が言った。
 「化物の癖にわざわざ陸に上がってまで人間と恋をしたり、折角人間だったのにソレを捨てて海の底に住むなんて生意気で気持ち悪いよ…海に帰るか泡になって消えてくれたらいいのに」
 そう言いながら、臨也はキスをして俺を押し倒したから、オレはポニョの最後を見ていない。
 世界が海に包まれて終わろうとしている光景を最後に、涙越しに見た。
 二人は幸せになれば良いと思う。

 俺を抱いた臨也が寝入った後に、俺は家を抜け出した。


 「…帰る海も、泡になる術も魔法使いもいない化物は…一体どうすりゃいいんだろうなぁ…」
 煙と共に吐いた愚痴が目に染みた。
 アレ位は、いつもなら、キレるか受け流せた筈が…今日は無理だった。
 何故かは分からない、でももう、無理だと思った。
 行く宛はなかった。臨也と住むと決めてから自宅は引き払った、背水の陣のつもりだったからだ…逃げ出せなければ頑張れると思った。全力だった。
 実際は飛びこませてくれる水もなく、絶望が背後で口を開いて待っている。
 臨也は二人で暮らす家の他に前々からの事務所を引き払わず職場として残している。
 臨也は逃げ道を残した…その事を思うと心はザラついた。
 ふらふら、夜を行く。
 「おや、静雄さんじゃないですか?お今晩わ」
 「…誰ですか?あんた」
 ふわふわ、泣き出しそうに軽く歩いていると、杖をついた人に会った。
 杖をついた人はクルリとソレを回しながら言った。
 「おいちゃんは、悪い魔法使いです」
 パチン☆とウインクしたつもりだろうけど、片目だったから派手な瞬きに見えた。
 あぁ、こんなクソッタレな夜に魔法使いなんてお誂え向きだと差し出された手を取ると、目を真ん丸くした。
 「やれやれ、こんなアコギな魔法使いに捕まっちゃうなんて…とても悲しい事があったんだねぇ」
 よしよしと抱き寄せて頭を撫でる悪い魔法使いに、俺は洗いざらい話した。
 話してしまいたかった。
 化物である事、恋の事、帰る場所がない事を。
 「…そっかぁ、おいちゃんは海には返してあげられないけど(コンクリ抱きなら何回かさせたけど…)、帰る場所ならあげようか、おいちゃんのとっておきの場所」
 おいで、と後ろも見ずに歩いていく魔法使いの後をついていくと、廃ビルの様な場所の屋上に来た。デカイ貯水槽があって、魔法使いはその蓋を開けて縄梯子を下ろすと、ソコに入っていく。
 続いて入るとヘソの上辺りまで水に浸かった。
 暗幕の様な布が途中で垂れていて入り口から奥は覗けなくなっていた様で、降りると中は明るく、下がガラス張りになり階下の様子が見える。
 ソコは個室を改造したバーになっている様だったが、今は誰もいない。
 そして、貯水槽の中を様々な熱帯魚達が泳いでいた。
 浅瀬もあり、蟹や海老も泳ぎ貝も居る。
 「おいちゃんの秘密のアクアリウムさ。貝と藻と海老が相互に作用して水を自浄したり一応循環式になってるんだよ。階下から鏡を使って日中は日が射すし、奥には水面から出てる部分もあるから寝られるだろう?ここで王子様の迎えを待ってたらいいよ」
 そう魔法使いに言われて、俺はその貯水タンクに住んだ。
 王子様が来たら出ていけばいい。
 魔法使いはそう言った。次の晩には臨也が来たけど、俺は帰らなかった。
 化け物だから…このままココに居よう。地上は俺の住む場所じゃない。泡になりたくない、声を失いたくない。
 「俺はお前の名前を呼んでいたいんだよ、臨也」


 毎日魚や色んな物が投げ込まれて、俺はソレを貪り食って泳ぎながら生活した。
 臨也は毎晩来て、入口で何か叫んでいた。
 下のバーは盛況で、俺を見るのに何だか大金をぼったくっていたみたいだ。
 水槽の魚になったようで嬉しかった。
 この中は綺麗な熱帯魚に溢れてそれと過ごすのは楽しかった。


 魔法使いは、俺を憐れんでいたみたいだった。
 王子様は来たのに、と。
 来てないですよ?あいつは降りてこなかった。人魚姫が地上に来ても、王子様が海の底へ来る事はないんです。
 俺を迎えに下りてはこない、そういう男ですよ…心の中で返しながら笑った。


 いつもの様に、新しく投げ入れられたピラルクで遊んでいると、下のバーに臨也が来た。
 俺は久しぶりに見る臨也を、潜水して眺めた。
 臨也も届かないながら手を伸ばしてくれた。
 少し痩せたとか、髪が伸びたとか…胸が締め付けられる思いを抱えながらそっとガラスをなぞる。
 一分を超えた辺りから、臨也は驚いた様な顔をして、突然笑い出した。
 そして俺に何か言った。
 『××××!!』
 声は聞こえなかった。
 俺達はそれからしばらく見つめあって臨也は帰った。
 俺はまだ給水槽に暮らしながら、王子様が下りてくるのを待っている。
 
王子様の血を浴びたら、足を得て俺は帰ろうと思う。
 それまでは、俺は化け物だから水の中でしか生きられないんだ。

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