※悲しい 「アンタまだ寝ないの?」 「ん、もうちょっとだけ」 みんなが寝静まった頃、宿屋の外で座ってる私に声をかけてくれたルーティの言葉にゆるく首を振る。そう、と一言呟いた彼女におやすみと言えば何か言いたげに口を動かしたけど、結局そこから何を言うでもなく私と同じ言葉を繰り返し部屋の中に入っていった。 「(…目、赤かったな)」 当たり前か、実の弟がいるとわかったと同時。その弟が目の前で自分たちを助けるために死を選んだのだから。 「(ルーティが泣くなんて初めて見たなあ、それもこれもアイツが悪いのに)」 何を泣いてるんだ、と。バカにしたように笑ってくれればいいのに。 「バカだなあ」 本当のバカは誰なんだか、そう言って頭でも叩いてやりたいのに。 揺れる黒髪をきれいだと思った。アメジストの瞳が羨ましかった。私のことなんか見向きもしないくせに、溜め息をついて待っててくれる優しさが、好きだった。 「……っ」 日溜まりのような優しさではなかったけど、彼は確かにその瞳に私を映してくれていたのに。どうして私は気付かなかったのだろう、孤独の淵に彼が立っていたこと。自惚れていたのだ、彼が私たちを信頼していたと。彼の本当に守りたいものも知らなかったくせに。 「、リオン…」 月は見えない、隠した雲をどうすることもできないままいつも通りの朝はくるのだろう。 ――― 「永遠はこころの中だなんて嘘よ」 あなたに守りたいものがあったように、私にだって守りたいものがあったのに。 title 幸福 11/07/01 |