「塚原、」 んだよ、って小さく返事をする背中は顔を見せてくれなくて。見えないとわかってるから頬を膨らまして「バーカ」と口の中で呟いてみた。 いつもよりだいぶ小さい背中。そう見せる原因は十分わかってる。 今日は風が強い。いつもならそれを嫌って屋上になんか来ないハズなのに、強い風も照りつける太陽も、昼休みの終了を告げる鐘だって今日の塚原の世界には響かない。 「授業サボんの?」 「…さっさと戻れば」 「やだ」 「ひとりにしてくれ」そんなオーラが出てる塚原が眉間にシワを寄せる。怒りそうなその表情もようやく振り向いてくれた事実に比べれば気にならない。だってひとりにしたらアンタは泣くでしょう。涙こぼさなくったって心で泣くでしょ。 あの綺麗な綺麗な女の人を思うんでしょ。 知ってるんだ、塚原が年上の綺麗な人に片想いしてること。流れる髪がさらさらで柔らかく陽溜まりみたいに笑う人。一度だけ見たその人は男の子なら誰だって好きになっちゃいそうで、女の子なら誰だって憧れちゃいそうな人だった。 私が塚原のことを大好きで大好きで毎日心の中で「好きだよ」って叫んでるように、塚原にもそんな人がいるんだ。そしてそれは私と一緒で叶うことがないってこともわかってる。 「…塚原のバーカ」 「はぁ!?何なんだよ!」 「うっさいバーカ!」 なんで気付かないんだよ、こんなに毎日叫んでるのに。 早く気付け、バーカ。 私の気持ちに気付いてそんでもって私のこと好きになればいいのに。あのお姉さんに向ける気持ちがほんの少しこっちに向けばいいのに。 「……かなめ、」 聞こえないフリすんのやめてよ。 目を閉じた先にある、塚原とお姉さんが並んで歩く光景がいつまでも消えてくれない。 ――― 「硝子の靴は何処」 要に片想いの子。 実は要っちより悠太くんが好きです。 お姉さんと一緒にいるのを目撃しちゃった女の子、でも要っちはその時振られちゃって傷心中です。 なんだか中途半端。 10/08/11 |