「好きだよ、アルヴィン」

そう言ってなまえは笑ってみせた。
よく笑うなまえらしい、屈託のない、少し照れたような笑顔。

「なんで…」
「なんで、って…人を好きになるのに理由が必要なの?」

必要だ、少なくとも俺は。俺にとって好きな奴は、俺を長生きさせてくれる奴、俺に利益をくれる奴。俺はコイツの「好きな奴」になるようなことをした覚えはない、のに。

「っあれだけ…裏切った俺のこと好きとか、おかしいだろ」
「同じだけ、それ以上にあなたは私を助けてくれたよ」
「……そんなの」

どうしてだろう、こいつらは。こんな俺のことをどうして信じるのだろう。
確かにこの場所にしがみついたのは俺だけど、軽蔑の眼差しでみられることもあったけど。だけどこいつだけは。

「本当にアルヴィンが嫌な人だったら私のこととっくに見捨ててるよ」

そうでしょ?と、確信に満ちた声は信じてる。自分の思いを、俺を。
俺のことなんて見限ってしまえばいいのに。少し辛いけどそれでしょうがないって、そう思っていたのに。

思えばこいつらはいつもそうだ。
何度も裏切る俺を、その度戸惑いながらも信じるあの「優等生」は、何を気にする風もなくすべてを乗り越えていくミラは、文句を言いつつもいつも振り返ってくれるあいつらは。諦めることを知らずに手を差し出し続けるんだ。ミラが死んだと思ったあのときでさえ、こいつは諦めることをしなかった。
それが俺にはわからないし、こわい。

もうすぐ朝日が出る。明るくなり始めた東の空から、零れる光が俺らを照らした。
こいつは明るい場所が似合う、そしてそれはきっと俺には似合わない。

「好きだよ」
「…………やめてくれ」

与えられるものに返せるだけのものが、俺にはないんだ。




―――

裏切ってる罪悪感とか信じ続ける強さとか、ごちゃごちゃになってるアルヴィンくん。

title 覆水
12/09/13

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