「遠くどこかの地では七夕という行事があるらしいよ」
「………はぁ」

話がある。整った顔立ちをこちらに向けて真面目な表情で言うものだから、さぞ重大な話なのだろう。そう身構えた私に向かって告げられた言葉に、思わず国王相手とは思えない声が出てしまった。

「えっと…それが用件、ですか?」
「ああ。書庫でたまたま見つけたんだけど、星を織姫と彦星とやらに見立ててふたりが会えるこの1日を祝福するらしいよ」
「それを私に言ってどうしろと」
「最近仕事ばかりで構ってもらえないからね、夜空でも見に行かないかい?」
「………それが、わざわざ人払いをしてデールも下げた上での用件ですか?」
「おや、気を悪くさせてしまったかな」

全く悪びれてないくせに悪かったと謝る国王にひとつ溜め息を吐く。くるりと軽く見渡せばいつも何人かの兵士が並ぶこの謁見の間に人影は見当たらない、もう一度呆れたように息を吐くと流れるように動いた金髪が私の手を取ってそのまま歩き出した。

「リチャード、」
「ようやく呼んでくれたね」
「…仕事中です」
「じゃあ休憩だ、長い旅を共にしたのに今更そんな言葉遣いしないでくれ」

にこり、と。王子様だったあの頃より少しだけ大人びた笑みを向けられて何も言えなくなってしまう。手を引かれるまま歩いた先、バロニアを見渡せそうなテラスにたどり着くと思わず立ち止まってしまった。

「わ…!」

見渡す限りに瞬く星と月、静まりかえるバロニアの街の上で輝くそれらはもう長いこと見てない気がした。
そういえば、夜空を見たのはあの旅以来だろうか。ふとよぎったのはリチャードに手を差し出し続けた彼らのこと。最近なかなか会えないけど元気かなと口元を緩めると見透かされたように隣のリチャードも笑った。それが妙に恥ずかしくて、誤魔化すように見上げた夜空にひとつ、川のように流れる星の集まりを見つけて思わず声がこぼれた。

「天の川、というらしいね」
「アマノガワ?」
「あの川が織姫と彦星を分かち、1年に1回この日に橋が架かって会えるらしいよ」

その間、会えるように互いに頑張るなんて健気でなかなかロマンチックだね。
小さいけど、静かな夜空に響く声になんとなく隣の彼に視線を向ける。
真っ暗な夜空に溶けることのない綺麗な金色、私にはないそれがひどく輝いて見えて、離れてしまいそうで。無意識に掴んだ腕を驚いたように見たリチャードと目が合う。ぱくぱく、と何度か空を切る口で何を言おうか考えたけど、とてもロマンチックな言葉は出そうになかった。

「…私なら、1年に1回なんて耐えられない、から意地でも会いに行く方法探すよ」

1年に1回だけですなんて言われたってそんなの守らない。川だって泳いでやる。
ロマンチストになんかならなくてもいいから側にいたいだけ。

目を丸くしたリチャードが一呼吸置いて、君らしいねと笑い出す。夜空を背負って笑う彼の表情は、なんだかひどく嬉しそうだった。








―――
「星のシャワーにたゆたう」

…誰だ、これ(白目)

title 幸福
11/07/07

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