ふと見上げた窓の外、音も立てず降る雨に心が曇らないのはきっと今日が大切な日だから。
「何か作るの?」
おはよう、と頭上から降る声に顔をあげるとユカちゃんが笑顔で私の手元を覗き込んでいた。これおいしそーと指差した先は生クリームの乗ったケーキ。その手に、生クリーム好きだったっけと瞼の裏にちらついた幼なじみの存在を見透かされたみたいで、心臓が少し音をたてた。
「なまえちゃんって料理上手そうだよね」 「うーん、上手かはわかんないけど好き」 「誰かに作るの?ケーキ」 「うん、勇人が誕生日なの」 「ゆうと?」 「あ、えっと…中学一緒の、栄口勇人」
ん?と首を傾げたユカちゃんの動きがぴたりと止まる。それに合わせるように口を閉じるとじわじわとユカちゃんの目が大きくなっていった。
「付き合ってるの!?」 「…え!?」
賑やかな教室に響いた少し大きめの声に何人かがこっちを振り返る、ぽかんと口を開けて反復するとようやく言葉の意味がわかった。 予想もしなかった言葉にじわじわどころか急速に頬が熱くなった、えっとえっとと言葉を選ぶうちにユカちゃんの目はキラキラとしていく、わああ女の子だ。
「いつから?」 「え、ちが」 「中学だとあんまり話してるの見たことなかったなあ、って私も栄口くんあんまり話したことないけど」 「ユカちゃ、」 「でも栄口くんかあー、優しそうだもんね」 「お、幼なじみなの!」 「え?」
話がよくわからない、だけどこのままじゃユカちゃんはおっきな勘違いをしてる気がする。慌てて遮ると思ったよりも大きな声が出て思わず口を手で押さえてしまった。
「だから、勇人は…幼なじみ、で仲良くしてもらってるから…いつものお返しっていうか…」 「えー、幼なじみの誕生日にケーキ作るの?」 「えっと、毎年作ってみんなで食べるんだよ」 「みんな?」 「家族で仲良しなの」 「へぇぇ!!」
よかった、とりあえず誤解は解けたみたいだ。まだ少し熱い頬をぺちぺち叩いてまた視線を落とす、やっぱり生クリームがいいかなあ。
「栄口くん甘いの好きなの?」 「うん、でも普段はゼータクだからってあんま食べないの」 「そっかそっか、じゃあ美味しいの作ってあげたいね」 「うん!」
よしよしとユカちゃんに頭を撫でられてなんだかわからないけどとりあえず今日の夜が楽しみで思わず笑ってしまった。と同時に鐘が鳴ってユカちゃんが席に着く。1時間目は、数学だっけ。
「………あ」
変わらず降る雨を眺めてようやく当たり前のことに気づいた、無意識に出た声に前の席の子にどうしたの?と振り返られてしまった。
「(…勇人、今日も部活だ!)」
はてさて、どうしよう。
―――
本当に何でもないことを延々と書くなこの長編…
11/06/08
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