「、やっぱりここにいた」
「よお」

何してるの、と聞けば少し笑った彼が暇潰しと隠すことなく告げた。その言葉と同時に出た煙に眉を寄せた私に気付いて一瞬目を反らされる。こっち見ろと言えない言葉は口の中で溶けて消えてった。

「学校の屋上でタバコなんて不良みたい」
「吸ってみる?」
「…やだ」

冗談だよなんてバカにしたような笑い方をするこの表情を私は知らない。ねぇなんで、ちっちゃい頃からずっと一緒でなんでも話せると思ってたのに、私だけだったの。喉まで出かかった「なんで」が吐き出せなくて気持ち悪い。
何も言えなくて俯く私の言いたいこと、わかってるのにどうして何も言わないの火を消すこともしないの。それなのに煙が私に来ないように風向きを確かめるなんてどうしてよ。外見がどんなに変わったってタバコに手出したってそんなところは変わってない、なんだかすごく不釣り合いだよ。

「……あ、」

ポツリと呟いた言葉に一瞬顔を上げた瞬間、聞き覚えのある音がした。カキンと響くそれにも声を張って球を追う彼らも私は知ってる、ついこの前までそこにいたんだから。
グラウンドを見ることはしないで彼を見上げる、その横顔は夏前より少し黒くなっていて瞳はゆらゆらと揺れていた。泣きそうなの、頭が認識した瞬間それはあくびのように私にも伝染する。ごしごし目元を擦ると「何やってんの」と苦笑いしたような声が聞こえて思わず「目にゴミ入った」とありきたりな嘘をついた。

「…帰んないの?」
「もう少しいる、俺は」

ひとりになりたいんだろうか、それがわかってるのに立ち尽くしたままの私は気の使えない子だろうか。
でもだからって、今のこの人を置いて帰るなんてしたくない。初めて見せる泣きそうな表情は、最後の夏にさえ見せなかったくせに。あの時みんなと一緒に涙をこぼせば良かったのに、誰より優しいこの人はそれを拒んでみんなの手を引くことを選んだんだ、隣にいた私にも頼ることをしないで。
吹いた風が冷たい、冬の始まりはこんなに厳しくて悲しいものだったっけ。去年「来年こそは」って笑ってたことも今では何年も遠い昔のことみたい。

「…寒いから、帰ろう」
「先に帰ってろよ」
「一緒がいい」

一緒に、帰ろう。
引っ張った手は私よりずいぶん大きくて、豆がまだ残ってる。それなのに鼻に届くのは汗臭さじゃなく紫の煙の匂いで、これからこの人の匂いはこれになるのだと思うとようやく涙がこぼれた。








―――
本気で目指して、でもそれでも結果を残せなかった時。一体何が残るんだろう。
みんなが泣くと逆に泣けなくなる人っているんじゃないかな。

title 花洩
10/12/20

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