涙が出そうなほど星が綺麗な夜は、息が詰まる。なんとなく不安になるんだろうか、わからないけれどお風呂上がりに出たベランダでひとり零れた嗚咽と体を抱きしめるしか出来なくてただひたすら言い訳じみた理由を考えていた。 今日はバイトでミスしちゃったから、自転車がパンクしちゃったから、見たいテレビ見逃しちゃったから。ぐるぐる巡る理由にじわりと視界が滲む。ぽたぽた零れるのは涙なんかじゃなくって髪から水が滴ってるだけだ、そうだ。 「…っ……」 ぽたり、なんて可愛らしい音じゃなくぼたぼた止まらないそれが地面の色を変える。 ブブブ、震えた携帯に助けを求めるように手を伸ばした。なんで、電話かけてくれるの。 「……ゆうっ…?」 『おう!なぁ今ベランダ?』 「なんで…」 『なんか呼ばれた気ィした!』 なんてこった、私の心の声が彼に届いちゃうなんて私の彼氏はもしかして魔法使いだったのかな。当たった?と笑う声は私の目を真ん丸にして代わりに涙を止める、本物の魔法使いだ。 『俺今お前ン家の下いんの』 降りてこいよって耳元で響く声が外にも同じように聞こえる。慌てて外を覗くと見えたのは暗闇に紛れた黒髪と電話を片手に手を振る彼。 「っ今行く!」 なんでわかったのかな泣いてること、部活帰りで疲れてるのに、寒くなってきたのに半袖一枚なんて。ぐるぐる思考が巡る、さっきと違うのは確実にそれは幸せに結び付いてるってこと。 「へへ、来ちゃった」 パジャマにサンダルで胸に飛び込む私を、お姫様みたいに優しく抱き締めてくれるのは悠だけだよ。 ――― 「来ちゃった」って田島に言ってほしかった^^ 田島くんは野生の勘で好きな人の不安とか感じ取れる子だといいなあ。 なんとなく泣きたい夜だってあると思うんだ。 title 幸福 10/09/13 |