「…息が、白い!」
「何そんな驚いてんの」

はぁー、長く吐き出した息が一瞬白くなって真っ黒の夜空に溶けていく。少し前までこんなことはなかったのに、もうすぐ冬だなあとしみじみ体が感じる。
そういえばこの前ここの道を孝介とニケツしたときは視界いっぱいの赤やオレンジの鮮やかな並木道だったのに、いつのまにか景色に色が減った。これは部活帰りの夜だけが原因ってわけではないみたい。
色をなくした落ち葉や白くなった息、だけど真っ黒だった隣の学ランにはマフラーが巻かれてそこだけは少し色鮮やかに変わった。
季節が変わってくのが目に見えてわかるなんて素敵だなあなんて少し笑うと孝介が首を傾げる、しあわせだなあ。

「もう冬だねー」
「そーだな、朝練がきつくなるぞ」
「それ言わないでよ…私起きれるかな」
「モーニングコールなんかしてやんねーぞ」
「う…が、んばる」

遅刻したらモモカンに怒られるぞ、ニヤリと笑う孝介は悪巧みしてる子どもみたい。自分だって朝はつらいくせに、マネージャーよりもっともっときついはずなのに、笑顔に変えてそつなくこなしちゃう彼は私の尊敬する人、大好きな人。

「肉まん食いてーな」とチャリを押しながら呟く孝介に奢らないよと笑えば頼んでねーよと笑ってくれた。

孝介に出会う前は冬の始まりなんて特別じゃなかったし、気にならなかった。寒くなるからいやだったし、落ちる木の葉の鮮やかさにも私のブーツと木の葉が鳴らす音にも気付かないでいた。
だけど今はちがう、ほんのちょっとずつ変わる毎日が楽しくて、それに気付ける自分を好きになった。
孝介を好きになって、自分を好きになれて景色が変わった。それは特別な日だけじゃなくて、毎日が特別になるほどに。

「孝介、」
「ん、どした?」
「チャリ乗せて」
「は?なんで」
「コンビニ行こうよ」

肉まん奢ったげる。笑いながら言うと一瞬変な顔をしてすぐ笑顔に変わる。
好きだよ、マフラーの柄が少し派手なのも寝癖で学校来るところも鼻が少し赤くなってるところもぜんぶ。

「どーゆう風のふき回しだよ?」
「んー、奢るついでに私もあんまん食べたいから」
「太るぞ」
「うっさいな!」

デリカシーのない男の子は嫌われるよ。喉から出る寸前で止める、こんなことうっかり言ったらお前は嫌いにならねーだろなんて男前なこと言っちゃうのが孝介だ。そうなったら私に勝ち目なんてないんだから、これは言わないでおこう。
代わりに彼の自転車に乗ればしょうがねーなと言わんばかりの顔をして自転車が勢いをつけて進み始める。

「重い」
「おいこら!」
「ジョーダンだよ」
「冗談に聞こえないよ」

ふは、と見えなくてもわかる顔を崩す笑い方も並木道が流れてく様も視界に映るマフラーもぜんぶぜんぶが心をあっためてくれた。
誕生日だけの特別なんかにしたくない、隣にいるこの毎日が特別であればいい。

「誕生日おめでとう、孝介」
「どーも」

肉まんを奢るのは私の気まぐれ。今日はいつもより財布の中身が裕福な私は部活で体力を使い果たした孝介にしょうがないなって奢ってあげる。
ゆるく笑う私たち、毎日が特別だって、なんて贅沢なんだろう。









―――
Happy Birthday!
Kosuke Izumi!!

10/11/29

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