ガタゴト、ポツポツ。電車に揺られる中で流れる景色は水滴で少し歪む。電車通学に雨は関係ないなんてとんでもない、濡れた傘を持った人が大量に乗り込んできてはお気に入りのスニーカーに水をこぼしていくんだから。駅から大学だって決して近くはないんだからいくら好きな音楽を聞いてたって溜め息がこぼれることもある、んだったのはこの前までの話。
雨が降る日には不思議な出会いがあるから、私の心と足取りはほんの少しだけ今までより軽くなったんだ。

「(…次か)」

まだ人の少ない電車の端に立って駅の名前を目で追う。その駅名を無機質な声が告げたと同時、開いたドアから見えた茶髪に少し頬が緩んだ。

「どもっス」
「ん、おはよう」

電車の中だからと控えめにした挨拶を交わして茶髪の彼は私の隣に並ぶ。その彼が着てるのは、私が去年卒業した母校の制服。少し特徴的な色のネクタイが目立つ制服はまだ一年経ってないのにひどくなつかしく感じる。

「…どしたんスか、ジッと見つめちゃって」

惚れた?とニヤニヤ笑う頭を軽く叩く、背伸びしなきゃならないのが少し悲しい。ちくしょう、こっちはひとつ年上だってのに背だって大人っぽさだって負けちゃってるなんて。

私の隣で悠々と吊革を掴んでる桐青高校三年生、名前は島崎くんというらしい。たまたま見かけた、なつかしい制服を着た人はそのかっこいい容姿も手伝って自然と目を惹いた。それから何日か、繰り返すうちに気付いたことはどうやら彼は自転車通学らしく雨の日だけはこうして電車を使ってるのだということ。
そんな彼をかっこいい男の子だなーと呑気に眺める梅雨の数日、数ヶ月経った秋の始まりに見事私の落とした定期を拾ってくれるというマンガみたいな出会いを果たしたのである。

「ていうか大学生ってこんな早いの?」
「大学は通学に一時間かかるんだよ島崎クン」
「そりゃオツカレサマ」
「ちょ、ちゃんと先輩を敬え!」

かと言ってそのまま少女マンガ並みの恋愛をするでもなく「先輩に向かって頭を撫でてくる生意気な後輩」と、大学の友達とも違う不思議な存在になった。高校の後輩とはここまで仲良くなかったから新鮮でなんだか楽しいのは言ってやらない。

「あ、ちょい詰めて」
「え?うん」

ガタン、と一度大きな音を立てて再びドアが開く。この駅から一気に込むんだよなあと眉をしかめると案の定視界が狭くなった。背中は島崎くんが言ってくれたおかげで壁があるけれど、前は少し息が詰まりそうになる。ふぅ、一息吐いて前を見ると見慣れたネクタイが映って思わずその先を辿るように上を見た。

「どした?」
「…なんでも、ない!」

思ったより、近い。いつの間にこんな距離になったんだろうと回らない頭が必死に活動を始める。しかも気づけば後ろは壁、前は島崎くんとこれじゃまるで恋人みたいだ。

「なぁ」
「な、に?」
「…今言うのもビミョーなんだけどさ」

クスリと柔らかく笑った表情がまた少し近づいて跳ねる心臓がギュッていたい。年上の威厳どこにいったのかえっておいでよ。

「誕生日おめでとーございマス」
「…え、」

知ってたの、呟いた言葉に前に聞いたしと笑う島崎くんが次に呟いた「だから今日わざわざ電車にしたんだし」との言葉に私の目が真ん丸くなる。

「だって雨…」
「お、着いた」

俺降りるから、と一言残した島崎くんと一緒にたくさんの人が降りていく。また少し空いた電車の中で何がなんだか、そんな顔をしていたんだろう。ブハッと人の顔を見て吹き出したのにようやく気付いて怒ろうとしたとき、ニヤリと彼が笑った。

「高校生なめんな、センパイ」

「じゃあな」ひらりと彼が手を振った瞬間、ドアが閉まる。なんだこれ少女マンガか、回らない頭はそんなことぐらいしか思い付いてくれない。

「こんぐらいの雨ならチャリで行けるっつーの」

そう呟いた言葉も知らないままちょっぴり赤くなった頬を押さえドアに寄りかかる、そこでようやく気付いた。
いつの間にか外の雨は止んでいたこと。










―――
ゆっこハピバ!ってことで今年は島崎くんにしてみた^^
島崎くんが電車通学してたら毎日ガン見すると思うよ!にこっ!

title 塩
10/10/12

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