外を揺らす風の音が冷たくなった気がしてさっき見た天気予報を思い出す。確かきれいなお姉さんは「昨日までの夏日は終わり上着が必要になりそうです」って言ってたなあ。そんなことを思いながらタンスの中から春以来のセーターを引き出した。汚れが目立つって文句を言うお母さんにいいの!って対抗して買った白いセーター。 女の子はいつだってかわいいものに弱い、着れば自分もそのかわいさをお裾分けしてもらえるかななんて思っちゃう。たとえ汚れが目立たない真っ黒なセーターがいくら便利でも少しでも明るくかわいく見えるなら迷わずこっちを選ぶんだ。 新しいものを着る日ってなんだか浮き足立つ気がする。いつもよりほんのちょっぴりかわいくなった気分、それに真っ白な力で私のかわいさは何割か増し、だったらいいなあ。 あったかいミルクティーを見つけて思わず買ったはいいものの、セーターに茶色の染みをつくらないようちょっと慎重に持ってる。お母さんの言うことが今更ながらわかるよ。 「寒いの?」 「ん、勇人は寒くない?」 「俺は平気。セーターはまだまだかも」 隣を歩く勇人の格好はワイシャツが長袖になっただけでそれ以外は夏休み前となんら変わりない。野球部はみんなそうだけど、彼らだけまだ夏の中にいるみたいだ。ずっと夏の太陽を浴びてキラキラしてるように見える。 「天気予報が寒くなるって言ったからね。でも思った程じゃなかったなあ」 「じゃあそれは?」 「飲みたくなっただけ」 「ふーん」とミルクティーを指差した手を下ろす勇人と視線が重なる。 セーター見ると秋っぽいねと柔らかく笑う勇人にミルクティーを少し口に含んだまま笑顔になる。かわいいって言われたわけでもないのに誉められた気分にさせられてあったまった頬はへにゃへにゃになっちゃいそう。少しでも勇人の視界に入るんなら染みをつくらない努力も惜しまず着続けようかな。 「勇人、何飲むの?」 「んー…」 のんびり歩いた先に辿り着いた購買、自販機の前に立つとさっき買ったミルクティー以外にもあったかいのが増えてることに気付いた。ここにも秋が来てるんだなあって改めて実感してみる。どうしようかなって首を捻ってた隣の彼がピ、ガコンと音を立てたのはいつも飲むお茶の小さなペットボトル。ただいつもと違ったのはそれを持つ手が一回触れたとき「熱っ」と声をあげたこと。 「あったかいのにしたんだ」 「うん、なんか見てたら飲みたくなった」 「人が飲んでるの見ると飲みたくなるよね」 「不思議だよなー」 お互い体があったまってるからか、続く会話はゆるゆるのもので、だけどなんだかこの空気は幸せにしてくれる。 普段は何気なく通りすぎることも勇人が隣にいると時間がのんびりになるみたい、いろんなことに気がつけるの。 「もうすぐ秋だなぁ」 「…夏が終わるの、寂しい?」 「そりゃ、ちょっとはね」 そりゃそうだ。勇人は高校球児だし高校球児といったら分厚い入道雲の通る青空な夏だもの。雲が薄くなって夕焼けが映える秋は勇人には似合わないかもしれない。 うーんと言葉にしないでいると先に口を開いた勇人がお茶を一口含む。喉が鳴って「でも」と続ける勇人に視線をあげる。その目は思っていたよりも悲しみを含んではなかった。 「でも、来年も夏は来るし」 「…うん」 「それに俺、秋もけっこう好きだよ」 やっぱり俺もセーター着ようかなって笑う勇人の笑顔は穏やかで、なんだか私よりもよっぽど秋っぽい感じがした。 毎日セーターの力を借りるのも悪くないけど、今度はこの前買ったニットを着よう。一目惚れしたミルクティー色のそれにお気に入りのチェックのスカートを合わせたらきっと「秋っぽい」って笑ってくれると思うから。 そんでもって照れ屋な勇人に「好き」って言わせる秋みたいな雰囲気を持つ女の子になってやるんだ。ひとり心の中で決意した私の手の中のミルクティーはまだあったかい。 ――― 秋物嫌いじゃなくむしろ好きなことに気付きました。 ちょっと涼しくなるのも夕焼けがきれいになるのも紅葉も全部楽しみです。 でも突然寒くなるのは苦手です。 title mm 10/09/28 |