ワァァァと大歓声が響く音がして、止まってた手が思い出したようにリモコンに伸びる。そのまま電源ボタンを押すとブツッと音を立てて画面が真っ黒になる、反射して映った自分の顔が泣きそうに見えて思わず頬を軽く叩いた。

「…甲子園、かぁ」

その単語を聞く度にフラッシュバックするのはこの前の美丞大狭山戦。力が及ばなかった私たちはその試合で涙を飲んだ。
何人ものチームメイトが泣く中で、涙をこぼすことなく前を向いてた悠一郎は一体何を思ったんだろう。
私はマネージャーだから試合に出てないのに、私たちはまだ一年目だから行ける確率なんて奇跡に等しいのに、涙が止まらなかった。

目を閉じると見えた景色に目の奥がじんわり熱くなってもう一度頬を叩く。同時にガラッとドアの開く音がした。

「お待たせ!」

両手にお茶を持って片方をくれる悠一郎に笑顔で返す。持ってきたばかりだってのに半分ぐらいない悠一郎のお茶は彼が部屋に来るまでに飲んだ証拠、なんだか子どもみたいだなあ。
こんなに子どもみたいでかわいい人が野球してる時は誰よりもかっこいいなんて一体どれくらいの人が知ってるんだろう。
そう思うとさっきの悲しさが少し薄れてなんだか嬉しい気持ちがじわりと滲み出した。

「なぁ、テレビ観ていー?」
「うん、何観るの?」
「甲子園」
「…………え、」

返事が出来ないで固まる私に「え、ダメ?」と首を傾げる彼は聞きながらさっき私が消したテレビの電源をつける。そこはさっき大歓声を浴びてた高校が校歌を歌ってるところだった。

「…………」
「なぁ、」

俯いてた私に伸びた手が頬に触れる。その手の何かを拭う仕草でようやく自分が泣いてることに気付いた。私の名前を呼ぶ悠一郎に溢れた言葉が嗚咽になる。ひっくひっく泣く私は悠一郎よりもよっぽど子どもだ。

「ゆ、いちろ…ごめ、」
「ん、ダイジョーブ」

よしよしって頭を撫でて抱きしめてくれる悠一郎が言葉を紡ぐ。「ありがとう」の言葉になんでお礼なのと聞くと「泣いてくれるから」と返された。

「オレ、あんま悔しくねーの」
「…うん」
「もっと必死になんなきゃいけなかったなって思ってるし、それに泣いたらダメだってモモカンに言われてっから」
「……うん」
「だから、オレらの代わりに泣いてくれてアリガトーなの」

肩に触れる手があったかくて同じように悠一郎の腰に手を回す。ギュッと裾を握ったらぼやけた視界に悠一郎の笑顔が見えた。

「来年連れてくから、もーちょいのガマンな」

な!と笑ってみせる彼に何度も頷く。涙が零れるけどそれは今だけだから許してね。来年にはきっと嬉し泣きしてる私がいるんだろうな。
ブラウン菅の先で走り出す彼らも同じ空の下、私たちだってまだ始まったばかりだ。










―――
高校野球はきっと一生好きな気がする。
田島はちゃんと前を見据えてる人だろうな。

title 幸福
10/08/12

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -