なんだか今日はついてない一日で。朝は寝坊するし占いは最下位だしチャリは壊れて電車通学、授業は爆睡、まぁそれはいつものことだけど。
「疲れてんの?」と尋ねる友達に首を傾げてわかんないと答えたら早く帰って休みなと苦笑されちゃった。

で、言われた通りさっさと帰ろうと授業が終わりすぐ高校にバイバイして今に至る。普段チャリで漕ぐ道も歩いてみるとなんだか知らない道みたいだ。
ふぅ、と思わず出た溜め息に友達の台詞が頭でリピートされて彼女みたいな苦笑がこぼれた。そっかそっか、私疲れてるのかな。
確かに最近テスト前なのにバイト続きだし彼氏には会えてないし。こーゆう時他校って不便だよなぁ、と思いを馳せるのは仏頂面の彼氏さん。あれ、そういえばもうどれくらい会ってないっけ。
確か隆也が「もうすぐ夏大始まっから」って言ったのが…二週間ぐらい前、だっけ。うわ、二週間連絡取らない恋人ってどうなのかな。

「…夏、かぁ」

確かに暑くなってきたけど。隆也の言うほど夏は私にとってキラキラして見えない。むしろ隆也が構ってくれない季節だから好きじゃないかもしれない。
まだジメジメして梅雨が残ってる感じするもんなぁ、あー暑い。パタパタ手で風をつくって陽射しに眉を寄せる。
なんだよこんなに晴れちゃってさ、隆也も彼女より野球だなんて、そんなに夏っていいもんかなぁ。そう思って見上げた空に、呼吸が止まった。

「…っ、」

呼吸に連動して止まった足が動かない。ただ見上げた視界に広がる空と雲が、眩しくて。どうしようもなくキラキラしてた。

「…………たかや」

ピ、と手の中の携帯が音を上げる。耳を当てて聞こえたコール音に心臓がいたい。早く、早く。

『…どうした?』
「たか、っ」
『は?泣いてんの?』
「泣いて、ない!」

嘘つけ、返ってきた声にぽろぽろ涙が地面に落ちる。そうだよ、泣いてないなんて嘘だよ。『おい』って耳に響く隆也の声をもうずっと聞いてなかった気がする。低くて、不機嫌みたいで、でも優しい声。
もう一度どうした?って聞く隆也にようやく私の口が開いた。

「…仕方ないじゃん」
『何怒ってんの?』
「空、」
『そら?』
「…空が、青くて」

「雲もあって、すごく夏っぽくってっ!」

こんなに空が青いなんて知らなかった。こんなに雲が分厚いなんて知らなかった。隆也の野球の上にこんなきれいなものがあるなんて知らなかった、ようやく知ったの。

「隆也の顔が浮かんだんだもん…!」

好きだよ。溢れた本音が地面に落ちて色を変える。
だってこの空が悪いんだ、こんなにキラキラ輝いて。こんなの、隆也だって夢中になるに決まってる。たった一瞬で私にも涙をこぼさせたんだから。

端に映った木もトラックも電信柱も何も見えなくなって、ただ青と白が見えたの。混ざって水色になることなんかなくって、確かにそこにいるんだよって主張してて隆也に似てるって、思ったんだよ。

『夏大見に来いよ』ってきっと笑ってる隆也に電話越しに頷いて「部活始まるよね?ごめんね」と切ろうとするとあっちからも謝罪の声がした。

『…悪ぃ、部活ばっかで』
「いいよ、隆也は野球大好きだもんね」

『バーカ』

寂しくないって言ったらまた嘘つけって言われちゃうけど、でも本当に大丈夫だよ。
隆也の気持ちがやっとわかったから、私きっと今までよりもっと隆也の近くにいられる。

『俺が好きなのは野球とお前』

この空と同じくらい私を好きでいてくれる。幸せに決まってるじゃないか。















―――
前半実話です。ただ違うのは私には電話する相手がいなかったこと(…)
夏が始まりましたね^^

10/07/15

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