距離感の掴めない手先が迷う。





―――左近は、言うなれば私の部下だ。
刑部とは違い、私に"従う"という形でこの軍にいる。

正直に言えば、左近はよくわからない。
飄々たる態度で、のらりくらりと掴み所が無い。私を"三成さん"と馴れ馴れしく呼んだかと思えば、諭すも怒るもなく、距離を保って他人行儀。


「おや、三成さん。如何しました?」


今もそうだ。私がいきなり部屋に入っても、軽く微笑んで用件を問うだけ。
腰を据えると、左近は筆を置いて私に向き直った。


「左近に何か話ですか?」

「……貴様は、」


言葉は突っ掛かったように紡ぐ事を一旦やめた。
一度口を閉じたからか、左近が小さく笑う。


「左近は何処にも行きませんよ」


言っていないのに返ってきた質問の答え。
絶句する私に、左近は更に言葉を連ねる。


「何処にも行きません。裏切りません。三成さんが、例え自分を失ったとしても。三成さんが世界に居る限り、左近はお供させていただきます」

「……その言葉に、偽りは無いな」

「勿論ですよ。ああ、三成さんが左近を要らないとおっしゃったら別ですけどね、ははは」


くだらない事を言った後に、刀の柄で頭を叩く。
痛いですねえ、と言いながらも、左近は笑ったままで。
そのまま、部屋を出た。
答えは分かったが―――結局、左近の事はよくわからないまま、うやむやにされた気分だ。



距離感の掴めない手先が迷う。
(どれくらい、これくらい、)
(模索するお姿は幼子の様で)
(つい、手を伸ばしたくなる)
(左近はちゃんと、此処に居ますよ)



110522
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