黒髪を見て微笑む文人。







「吉法、戻ったよー」

「遅いわ、このうつけが」


べしん!と思いっ切りハリセンで叩かれる。
んむぅ……結構痛いんだけど。吉法のがうつけじゃないか。
そうは思ったけど、何も言わないで前を見据えた。乱立してる旗の文は、何処だかよくわからない。
けど、わかることは、吉法達に弓を引いたこと。
……なら、やることは決まっている。


「行けぃ。全てを根絶やしにせよ」


地鳴りに近い雄叫びが、空気と空間を震わせる。
それから、馴れたように兵達は進軍を始めた。
一気に寂しくなった本陣には、片手で足りるほどの人数しかいない。
ボクがただ佇んでいると、横から視線が痛いほど突き刺さった。
……ああ、成る程。


「吉法も出るの?なら戻るけど」

「……是非もなし」


横に向けられた手に収まるように、姿を元に戻した。
抜けば玉散る氷の刃、それに纏うは悪しき闇。それがボクの、本来の姿。
ボクを一振りしてから、馬を走らせる。


「魔王だ!魔王がいたぞ!」

「討ち取れ!!」

『あーあ、とんだ命知らずだねえ』


ボクの声は、ボク自身が振るわれる音で掻き消えた。
空気も風も飲み込んで、人の命を刈り取る。
吉法よりも桃丸よりも、ボクのがずっと酷くて暗い魔の死神じゃないか。
―――勿論、それこそが誇りだけど。


「ぎゃぁああぁああああぁ!!」


断末魔の叫びさえ、ボクには何も響かない。
血に塗れて流石に切れ味が鈍る。ぶつり、と肉を引き千切る音が増えた。
あーあ、コレは血を落とすの大変そうだなあ。

暫くして、吉法は本陣に戻った。
柄を軽く叩かれたのを感じて、人型に変わる。
刀身が纏っていた赤色は、ボクの服とか、髪とか、色んな所に満遍なく付いていた。


「ねえ吉法、悪くない"お洒落"じゃない?」

「……兎束めが、言いよるわ」


微かに笑んだ表情に、ボクは笑みを浮かべた。
よく言ってるのは吉法だよ、普通の人間なら間違いなく引くもん。
振り返った戦場は、ボクの散らした命の絵画が照らされている。
―――今日も、ボクの勝ち。







黒髪を見て微笑む文人。
(ああでも、コレ落ちるかなー…)




110207
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