この身を纏う何重にも重なった布。







「兎束様!お久しゅうございます!」

「久しいな、兎束!元気にしていたか?」

「んむ、犬千代とまつ姫だー。久しぶり」


安土城に来た二人ににこにこと笑いかける。
慶次はー?と問い掛けると、帰ってきていないと苦笑いされた。
あーあ、慶次も相変わらずなんだなあ。


「そっかー。んで、ボクに用事?」

「忘れる所でした!兎束様に、まつめが新しいお召し物をお作りしたのです」

「きっと兎束も気に入るぞ!なんたってまつが作ったのだからな!」


是非こちらへ!と両腕を引っ張られる。
んむ、ボクにはいらないって言ってるんだけどなー。
でもまあ、好意は有り難く頂いておこう。

二人が使う客間で広げられた、濃灰色の着物。
幾重にも重ねられたそれは、所々に鮮やかな赤で紋様が入っていた。
どうぞ、と差し出したまつ姫から受け取って、いそいそと着替えはじめる。
二人とも後ろ向いて、本当律儀だよねー。桃丸なんかは絶対にしないよ。


「…んむ、終わったよー」

「では、失礼いたしまする」


ゆっくり振り向いた二人は、ボクを見てすぐに笑顔になった。
大きさはぴったりで、質素ながらも単純ではない柄が凄く可愛い。
まつ姫が嬉しそうに、両の手を合わせた。


「よくお似合いです、兎束様!」

「某もそう思うぞ!まつと某の目に狂いはなかったな!」

「んむ、ボクも気に入ったよ。ありがとー」


最初に思ってた"いらない"って感情は、とっくに消えてなくなってた。
人の真似事も悪くないかもしれない。
そう思うようになった自分に驚きつつ着物を眺めてると、不意にまつ姫がボクの手を取った。


「兎束様、濃姫様とお市様にもお見せしませんか?折角お似合いですから」

「んむ、じゃあ行こうかなー?犬千代はー?」

「某は呼ばれているのでな、二人で行ってくるといい!」


じゃあお言葉に甘えてー、と一声かけてから、まつ姫の手を握り直した。
どんな反応するかな?とまつ姫に問い掛けると、穏やかに微笑んで、似合っているとおっしゃいまする、と返ってきた。
その反応が本当に当たるのは、このあとすぐの話。





この身を纏う何重にも重なった布。
(ボクの意識さえも変えて包む)


110130
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