反物を眺め、恋焦がれ。







「あれ、竹千代と佐吉だー。珍しいね、どったの?」


城門近くで言い争ってたのは、金色と黒紫。
声をかけたボクをめずらしそうに見るのは金色の竹千代、無表情なのは黒紫の佐吉で。
はは、と竹千代が渇いた笑い声を零す。


「使いを頼まれてな。城下に行くんだ」

「誰が貴様と行くといった家康!私一人で十分だ」

「おいおい、それじゃあワシが怒られるだろう?」

「知るか」


あれま、相変わらず仲悪いんだねえ。……主に佐吉が一方的に。
んむ、そーだ!調度ボクも暇なんだよねー。


「じゃあ三人で行こー!ボクも城下行きたい!」

「おお、それはいいな!」

「ほんと?ねえ佐吉、いいよね?」

「フン、勝手にしろ」


はい了承いただきましたー!
え?おかしいって?そんなの知ーらない!
二人の手を取って、ぐいぐいと引っ張っていく。
竹千代が苦笑いしてたって、佐吉が竹千代に悪態ついてたって、手は振り払われない。だから、それでいい。
ボクには無い温もりが、酷く心地好かった。









「兎束、そこの店だ」

「んむ、」


竹千代に言われて、足を止めた。
立派な家に、かけられてる無数の反物達。
店主に話かけかけてる竹千代を横目に、それらを眺める。


「……気に入ったのか」

「んむ?んーん、綺麗だなって」


佐吉の言葉にそう返して、手を伸ばした。けど、結局触れられずに引っ込めた。
佐吉の視線、びみょーに痛いんだけどな……。


「綺麗だと思うなら気に入ったのではないか」

「そーかも。でもボクには不釣り合いだよ」

「そんなことはないと思うぞ、兎束」


腕に反物を抱えた竹千代が、佐吉とは逆横からそう零した。
綺麗だな、と呟く彼は、きっと感性が豊かなんだろーな。
ボクの事に気付く佐吉は、不器用で素直で優しい人。
羨ましいと思わないといえば嘘になる。でも。


「んーん、ボクが纏うのは赤色だけ。それがボクの存在意義だよ」


ボクは人間じゃなくて、武器なんだから。
そう笑うと、佐吉の手が頭に乗った。竹千代は、凄く悲痛な顔をしてた。
それに首を傾げる。


「ねえ竹千代、忘れてない?ボクは"妖刀"。それに誇りがあるんだよ」

「だが……」

「見苦しいな、家康。貴様は兎束の存在を否定しようとするのか」


腑に落ちないような顔をしながらも、竹千代がそれ以上、このことについて言うことはなかった。
帰ろー、と腕を引くと、竹千代は泣きそうな顔で笑った。
佐吉は相変わらず、無表情。
けど、ボクが笑うと、少しだけ、二人の頬が緩んだ。





反物を眺め、恋焦がれ。
(戦が無くなったら、ボクは、)



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