反物を眺め、恋焦がれ。 「あれ、竹千代と佐吉だー。珍しいね、どったの?」 城門近くで言い争ってたのは、金色と黒紫。 声をかけたボクをめずらしそうに見るのは金色の竹千代、無表情なのは黒紫の佐吉で。 はは、と竹千代が渇いた笑い声を零す。 「使いを頼まれてな。城下に行くんだ」 「誰が貴様と行くといった家康!私一人で十分だ」 「おいおい、それじゃあワシが怒られるだろう?」 「知るか」 あれま、相変わらず仲悪いんだねえ。……主に佐吉が一方的に。 んむ、そーだ!調度ボクも暇なんだよねー。 「じゃあ三人で行こー!ボクも城下行きたい!」 「おお、それはいいな!」 「ほんと?ねえ佐吉、いいよね?」 「フン、勝手にしろ」 はい了承いただきましたー! え?おかしいって?そんなの知ーらない! 二人の手を取って、ぐいぐいと引っ張っていく。 竹千代が苦笑いしてたって、佐吉が竹千代に悪態ついてたって、手は振り払われない。だから、それでいい。 ボクには無い温もりが、酷く心地好かった。 * 「兎束、そこの店だ」 「んむ、」 竹千代に言われて、足を止めた。 立派な家に、かけられてる無数の反物達。 店主に話かけかけてる竹千代を横目に、それらを眺める。 「……気に入ったのか」 「んむ?んーん、綺麗だなって」 佐吉の言葉にそう返して、手を伸ばした。けど、結局触れられずに引っ込めた。 佐吉の視線、びみょーに痛いんだけどな……。 「綺麗だと思うなら気に入ったのではないか」 「そーかも。でもボクには不釣り合いだよ」 「そんなことはないと思うぞ、兎束」 腕に反物を抱えた竹千代が、佐吉とは逆横からそう零した。 綺麗だな、と呟く彼は、きっと感性が豊かなんだろーな。 ボクの事に気付く佐吉は、不器用で素直で優しい人。 羨ましいと思わないといえば嘘になる。でも。 「んーん、ボクが纏うのは赤色だけ。それがボクの存在意義だよ」 ボクは人間じゃなくて、武器なんだから。 そう笑うと、佐吉の手が頭に乗った。竹千代は、凄く悲痛な顔をしてた。 それに首を傾げる。 「ねえ竹千代、忘れてない?ボクは"妖刀"。それに誇りがあるんだよ」 「だが……」 「見苦しいな、家康。貴様は兎束の存在を否定しようとするのか」 腑に落ちないような顔をしながらも、竹千代がそれ以上、このことについて言うことはなかった。 帰ろー、と腕を引くと、竹千代は泣きそうな顔で笑った。 佐吉は相変わらず、無表情。 けど、ボクが笑うと、少しだけ、二人の頬が緩んだ。 反物を眺め、恋焦がれ。 (戦が無くなったら、ボクは、) 110127 |