手毬を持った少年の眼差し。





「まるたけえびすに おしおいけ
あねさんろっかく たこにしき
しあやぶったか まつまんごじょう
せったちゃらちゃら うおのたな……」


ぽん、ぽんと手鞠を取っては放る。取っては放る。
帰蝶がくれた鮮やかな手鞠は、空の青にだって負けないくらい映えた。
きれい。うつくしい。


「ろくじょう ひっちょう とおりすぎ
はっちょうこえれば とうじみち
くじょうとうじで とどめさす」

「兎束ー!」

「んむ?」


最後に大きく放って取った時、紫の影がぱたぱたとこちらに走ってきた。
ボクを見て、ちょいちょいっと手招き。


「まぁた此処に居たのかよ。信長様が呼んでるぞ!」

「吉法が?んむ、じゃあ行かなきゃ……蘭は?」

「勿論行くよ!てか、兎束!蘭丸だって言ってるだろ!」

「はいはい、そのうちねー」


怒る蘭をからからと笑いながらあしらい、城の奥へ向かう。
最初こそ迷ってばかりだったけど、さすがにもう慣れた。
躊躇いなく足を踏み入れて、手鞠をぽん、とまた投げては取る。投げては取る。


「吉法、なぁに?帰蝶と桃丸までいるなんて」

「…兎束、余をその名で呼ぶでないわ」

「いいじゃん、ボクのがずーっと年寄りなんだからさあ」


くすくす、と笑ってみせると、ふん、と鼻で笑われた後に顔逸らされた。
聞き返すと、ぽすん、と頭に掌がのった。
んむ、ボクより背が高いからって、桃丸め。


「信長公は兎束を心配していたのですよ」

「んむ?吉法そーなの?」

「……是非も無し」


あ、図星っぽい。
ありがとー、と間延びした声で礼を言うと、一瞬だけ視線を寄越した。直ぐに逸らされたけど。
頭に乗った掌は、その性格からじゃ考えられないくらい優しく柔らかく、ゆっくり撫でている。
なかなか上手なんだよね、桃丸は。


「兎束を離しなさい、光秀!」

「そうだぞ変態!幼子趣味かよ!」


ちょ、ボクいるのに武器向けないで欲しいな……。
桃丸は怖いですねえ、なんて言って、大人しく離れていった。
相変わらず表情の動かない吉法に笑いかけてから、帰蝶たちのほうへ向かう。
世間様からどう思われてたって、ボクにとってはこの手の手鞠と同じ、鮮やかな色彩。





手毬を持った少年の眼差し。
(綺麗な世界、美しい光)



110116
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