唯一つの始まり――誕生。 「そんで?何かアテでもあんの、こーちゃん」 「こーちゃん言うなオッサン」 ならアンタもオッサン言うな。 けどそこで俺が言うと堂々巡りするから言わねえ。わあ俺ってばオットナー。 痛い自画自賛は心の中だけに留めて、幸太郎に視線を向ける。 「……確信が無くてもいいなら、ひとつ」 「はぁ?!何言ってんだおま」 「煩い黙れ股引き、シメるぞ。…聞かせてくれ、幸太郎」 言葉を遮って睨んだら、イマジンズが引き攣った短い悲鳴をもらした。あ、ゴメン、みんなそっちにいたんだっけ。 怒るならモモタロスに頼むぜ、と理不尽過ぎる責任転嫁を胸中でしながら、幸太郎を更にじっと見据えた。 「…オッサン、その視線怖いんだけど」 「あ、悪ぃ。んで?」 「俺達の時間から一体、イマジンが過去に飛んだんだ。……この日付に」 渡されたチケットに刻まれた日付。見覚えがあるどころじゃない、十八年前の十二月二十六日。 ―――良太郎の、誕生日。 「彰太郎?どうしたの?」 「…………ビンゴ。これだ」 リュウタロスの言葉は悪いけど無視の方向で。 さっさと食堂車を出て、先頭の制御車へ。ポケットに入っている事が当たり前になったパスに、そのチケットを入れた。 「なあ、良太郎。…お前は、此処にいるよな?」 押し潰されそうな不安は、確かにある。 もしこれで、良太郎が居なかったら?取り戻せなかったら? いや、それ以前に―――俺が、死んだら? 身震いがした。良太郎、お前は本当に凄ぇよ。 だからさ、頼りねえ兄貴だけど、今回くらい、お前にかっこいいところ見させてくれ。 「さてと…じゃあ行きますかね」 怖くても、何もやらない後悔なんざ願い下げだ。 唯一つの始まり――誕生。 (誕りの生まれなど在らず) 110503 |