歩き続けていく――人生。










―――人の気配とか、物音とか。

そういうのがしないことを感じてから、目を開けた。
きょろきょろと周りを見回して、それから、そっと片足をベッドから下ろして―――


「何してるの?兄さん」

「りょ、良太郎……これは、その、だなあ…」


何時の間にか部屋にいた良太郎が、にっこりと俺を見据えていた。
……サタンだ。背後にサタンが見える。
引き攣った笑いを取り繕う事もしないで、俺は足を戻した。
近付いて来る良太郎は、溜息。


「まだ動いたらダメだよ、倒れたんだから。幸太郎にまで心配かけて…」

「う、いや、その…悪い」


そう、俺はあのあと、見事にぶっ倒れた。
医者の見解じゃ、過度の運動とストレス。それから疲労。
苦笑いしか浮かばない。本当、俺ってば情けねえ……。
リゾット持ってきたよ、という良太郎の言葉に、上半身だけ起こす。うお、美味そう。


「薬もあるからね、兄さん」

「へいへい、分かってますよー」


つーか俺はお前より年上なんだが。
そう思ったが、空腹には勝てない。出来立てリゾットをゆっくり口に運ぶ。


「ど、どう?」

「うん、美味い!流石良太郎、俺の好みよーっく分かってるよ!」


本心からそういって、笑う。つられたのか、良太郎も。
けど、その表情は直ぐに陰った。
俺も食べる手を止める。


「兄さん、ゴメン…僕のせいで、兄さんが、」


憂う表情の両頬を、軽く叩いてやった。
きょとり、とする良太郎に笑って、頭に手を乗せる。


「気にすんなよ。頼りなくても、俺は良太郎の兄貴だぜ?……ちょっとくらい、良いカッコさせろよ」


そう言って、力任せに頭を撫でた。
痛いよ兄さん、と困ったように笑う良太郎は、満更でもなさそうで。
勢いよく、突っぱねるように手を放したら、良太郎は後ろにぐるんと一回転、二回転……
俺が大口開けて笑ったら、良太郎はやっぱり、困ったように、でも嬉しそうに、笑った。












歩き続けていく――人生。
(生きる人はただ進む)




110521
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