出会った人々の豊かさ。





「アルバじゃねーか!こんなところで何やってんだ?」

「んあ?」


ジョナに許可をもらって、ぶらぶらと散歩してる途中、横からかかった声に振り向くと、ジョセが大きく手を振っていた。何あれ超イイ笑顔してるんだけど。
そっちに近づくと、ジョースケと変なのを頭に着けてるオニーサン、金髪のオニーサンがいた。何かあれじゃね、金髪率高くね?俺の気のせい?


「散歩してんの。ずーっと動かないんじゃ身体鈍りそうだし」

「アンタ仕事しないんスか」

「討伐対象がいないんじゃ仕事ないもーん」


それともジョースケが相手してくれんの?と笑ったら、冗談じゃねぇ!と拒否されました。俺だって冗談だよ、人間相手は専門外だし。
ふと視線を感じてそっちに目を向けたら、頭に変なのをつけてるオニーサンをバッチリ目が合いました。即刻逸らしたけどね!コミュ障ナメんなよ!!


「おい、何で僕から視線を逸らした?」

「苦手だから。あ、オニーサンがじゃないよ、人と話したりとかが苦手なの。あんまり関わることが無いものでね」

「そうか。じゃあちょっとこっち見ろ」

「人の話は完全スルーですか。だが断る」


ふいっ、と顔ごと逸らす。オニーサンがどんな顔してるかは知らないけど、俺はそれを知る必要もないし。俺だってスルーするもんね!
……と思ってたら、今度は金髪のオニーサンとバッチリ目が合いました。うわぁん俺のバカぁあああああ!!……ダメだ、何か今日テンションが定まらないや。


「お前、JOJOとどういう関係なんだ?」

「じょじょ?」

「あー、俺のこと。アルバは仕事?の関係で、今俺ん家に居候してんのよシーザーちゃん」

「へぇ。俺はシーザー・A・ツェペリだ」

「アルバです現役ハンターです。えーと、シーザーサラダ?さん?」


そう言ったら、シーザーサラダは音を立てて固まった。ジョセは隣で腹抱えて笑ってるんだけど、今の会話でツボに入るようなところあったっけか。うーん、俺には分からない!
そんなこと思ってたら、サラダに思いっきり胸ぐら掴まれました、まる。わあ怖い。


「……ふざけてんのか?」

「いんや、俺は全くもって真面目よーサラダさん」

「どうしてそっちを採用するんスかアルバ!!おかしいだろォー!!」

「…………稀に見る馬鹿だな。クソッタレ仗助より上か」

「ヒィ、腹痛ェ……!!最高すぎんだろアルバ!!」

「何か俺、この間から馬鹿にされてばっかりなんだけど!ジョセは笑いすぎっしょ!!」


ダメだこりゃ、収拾つかないんじゃね?もしかして俺のせい?いや、断じて違うと言い張ろう。
そろそろお暇させてもらおうかなあ、と思いつつ、サラダの手を掴んで胸ぐらから放させた。実は若干苦しかった。
その瞬間、俺達の頭上を、大きな影が横切った。ハッとして空を仰ぐ。あれは、あの、影は。


「おい、聞いてるのか!」

「サーセン聞いてなかった。んで悪いんだけど、俺ちょっとお仕事してこなきゃだわ。さっきのアレ、確実にモンスターだった」

「モンスター?お前、頭がおかしいんじゃあないか」

「変なもの頭に着けてるオニーサンに言われたくないかな!」


にっこりと笑ってやったら、オニーサンが表情を歪めてた。自覚あるの?ある感じ?
サラダの手をパッと放して、ジョセとジョースケにいってきま!と言い捨てる。それから、返事も待たずに、影を追って走り出した。
……あっ、強走薬飲んでおけば良かった!俺スタミナ持つかな。









走るアルバの後ろを追いかける。……んだけど、ちっともアルバには追いつけない。寧ろ、ジリジリと離されているかのように感じる。俺も足の速さにはそれなりに自信あるんだけど!どんだけ速いんだよ!
俺の横を走るシーザーと、少し後ろを走ってる仗助を横目に見る。走ってる足音から、露伴はそこそこ後ろを走っているらしい。まァ、漫画家ってインドアだろうし、体力ないんだろーな。


「ったく……空ばっか飛ぶなヘタレウスが!《白雷弓ボルトクルス》!!」


少し苛ついたようなアルバの声が聞こえたと思ったら、アルバの手には大きな弓が握られていた。矢を目一杯引くと、空を飛ぶモンスターに矢を向けた。


「落ちろぉおおおおおおおおお!!」


ぱっ、と手を離された矢は、美しい曲線を描いて飛んでいく。けど、それはモンスターよりも高く高く飛んでいった。


「……馬鹿じゃないのか、アイツ。上に射ったところで、撃ち落とせるとは思えないぜ」

「聞こえてるよヘアバンのオニーサン!いくら俺がノーコンだからってナメんなよ!!」


があっ、と効果音がつきそうな感じで、噛みつくようにアルバは言い捨てた。いや、悪ィけど俺もそう思うぜ。てか、ノーコンなのかアルバ。
モンスターの上まで飛んでいった矢はパン!と弾けて、無数の矢に変わって降り注ぐ。


「なんだと?!」


シーザーの驚愕した声は、モンスターのうめき声にかき消されそうだった。モンスターは足をばたつかせて、そのまま地面に落ちる。
オーノーッ!本当に落としやがったアルバの奴!!


「無茶苦茶にも程があるだろ……」

「無茶しないとハンターなんてやってらんないんだぜ!ホラ、危ないから離れた離れた!」


アルバは俺達を茂みの影に隠れさせると、また弓を構えて、モンスターに向かって射る。
まるで物語やアニメにでてきそうな銀色のモンスターは、アルバを敵と認めたのだろう。アルバに向かって突進する。


「おい、JOJO!アイツ一人に任せていいのか?!」

「アルバに邪魔するなって言われてるんだよ。それとも……シーザー、お前は、あのドラゴンを相手にできると思ってんのか?」


俺がそういえば、シーザーは苦い顔をして押し黙った。無理だと分かっているんだろう。ていうか、俺だって相手にできると思ってないし、しようとも思わない。
ちらり、と横を見れば、仗助が真剣な面持ちでアルバの方を見ていた。


「そういやさあ、仗助が見たっての、あのモンスターじゃねーの?」

「……いや、俺が見たのは空なんか飛ばねえし、そもそも銀じゃねー。……露伴テメェッ!!横でガリガリうるせえんスけど!!」

「なら耳でも塞いでいればいいだろう。こんな貴重な場面をスケッチしないわけがない」


露伴の言葉に、思わず苦笑い。いや、俺もこいつのマンガは好きで読むけど……なんかなあ。
その瞬間、でかい爆発音にハッとして向き直ると、地面の一部が燃え上がっていた。モンスターの口から煙がでてることを考えると……ええと、もしかして、火ィ吹いた感じ?


「ぅあっちぃいいいいいいいい!!至近距離でブレスとか死亡フラグもいいとこだよ!!」


消えろおおおおおおお!と喚きながら、アルバは地面をごろごろと転がっていた。プスプスと煙が上がってるのを見る限り、火がついたらしい。
起きあがったアルバの背中は、服が燃え、痛々しい火傷を晒していた。それでも、アルバは怯まない。


「アルバ!大丈夫なんスかぁー?!」

「へーきへーき!これくらい日常茶飯事だからね!もう終わらせるからちぃっと待っててー!」


仗助の言葉に、アルバは変わらない調子で返す。それから、突進してくるモンスターに向かって、まっすぐ、矢を向けた。


「――――――、」


微かに動いていた口は、何か言葉を紡いだのだろうか。モンスターの鳴き声にかき消され、それは分からない。
勢いよく放たれた矢は、モンスターの頭に深々と突き刺さり、そして、その生命さえも殺したのだろう。モンスターはゆっくりと倒れ、動かなくなった。
それを見てから、アルバに近づく。


「はァい、討伐完了っと。いやー、ワールドツアーされなくて良かったー」

「ワールドツアー?」

「うん、空中を何回か旋回したあと、急降下してくる攻撃なんだけどねえ。やっぱ、死角からって怖いモンよ?」

「その前にアルバは背中なんとかしねーと!」


シーザーの質問に答え、へらりと笑うアルバを、仗助は無理矢理に座らせた。大の男が拗ねたってかわいくねーぞ、アルバ。
背中の火傷は、予想以上にひどく見えた。これだけの怪我を負っても、動きが鈍らないアルバは流石というか、なんつーか。


「……ねぇバンダナのオニーサン、なにしてるの?」


俺の横でスケッチをしている露伴が気になったのか、アルバは怪訝な表情を全く隠さずに、露伴に向き直った。当の露伴はといえば、ちらりと視線を寄越しただけで、スケッチブックを見据えたまま。


「見て分からないのか、スケッチだよ。こんなリアリティを逃すわけにはいかない」

「へーへー、さいですかー」

「感触が知りたい。おい、傷触らせろ」

「いっでえええええええ!!なんなのオニーサンおかしいでしょ!!頭おかしいでしょイカれてるの?!この状況で!!」


背中の火傷を触られたらしいアルバは、無駄に大きく身体を跳ねさせて、俺の後ろに隠れた。おい、人を盾にするなよな!!
露伴はじりじりと距離を詰めようとしていたが、それよりも速く、仗助がクレイジー・ダイヤモンドで傷を治していた。露伴が不機嫌になったのは、言うまでもない。


「治ったっスよ、アルバ」

「おお……マジだ……!!ありがとうジョースケ!!あ、そうだ、ジョースケが見たモンスターって今のだった?」

「違うっす。俺が見たのは空なんか飛ばなくて、黒くて……あ、一部が緑に光ってたぜ」

「そんなの、本当に存在するのかよ」

「あ、やっぱシーザーちゃんもそう思う?……けど、実際にモンスターに遭遇してるしなあ……」


怪訝な顔のシーザーにそう返せば、そうだな、と低い声で肯定された。アルバがきてから、俺達の常識はひっくり返されてばっかだ。
アルバはといえば、考え込むような顔で固まっていた。いつもの表情とは、全然違う。


「アルバ?どうしたんスかァ〜?」

「……いや、ちょっと。ダイジョーブ、大したことじゃないし」

「おい、さっきのモンスターの名前はなんて言うんだ」

「ヘアバンのオニーサンは本ッ当、強引にマイウェイだね!人のことなんかいえないけど!!……リオレウスだよ。銀火竜・リオレウス希少種」


俺、無駄に疲れたよ……とうなだれるアルバに、それはこっちの台詞だ、と、喉まででかかった。横のシーザーに睨まれて、慌てて飲み込んだけど。





出会った人々の豊かさ。
(俺はちょっとついていけないです)



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