取り合えず一歩目をぴょんっと。





「だーかーらー、本当だって言ってるじゃないスかぁ」

「…………そう言われても信憑性があるようには聞こえねぇぞ」


承太郎さんひどいっすよォ〜、とうなだれる仗助。いつもなら誰かしらがフォローにはいるんだが、今回ばかりはそうもいかなかった。
仗助が、怪物を見た、と、突拍子もないことを言い張っている。
なんでも、人間の何倍もある体躯の生き物、いうなれば恐竜のようなものを見たらしい。そんなの、三流ファンタジーでも見かけない。


「仗助、エイプリルフールでももうちょっとマシな嘘つくぜ?」

「白昼夢でも見てたんじゃないの?」

「みんなしてひどいッスよ!」

「まあまあ。……ん、あれ?呼び鈴?こんな時間に?」


はーい、と声を出しながら、兄貴が玄関に向かう。その間も仗助は、見たんスよ本当に、と繰り返していた。さすがに、ジジィと徐倫と顔を見合わせる。
少しして、足音が二人分、こっちに近づいてきた。兄貴の後ろには、見たことのない男が佇んでいる。民族衣装のような服をまとったその男は、かぶっていた笠を外して、ニッ、と笑ってみせた。


「仗助、君にお客さんだよ」

「どーも、遅くにスンマセン。ヒガシカタジョースケさんが此処にいるって聞いて来たんだけども」

「……へ?俺?」


あっけにとられる俺達をよそに、その男は笑ったままだった。兄貴に促されて腰を落ち着けると、仗助のほうへ向き直る。


「アンタ、誰っすか?初対面スよね?」

「うん、初対面。君とはね。ええと、なんだったっけ……そうそう、ステップワゴン財団ってところから、情報もらって来たの。ジョースケくんに聞きたいことがあって」

「あのォ、オニーサン?スピードワゴンだからね?スピードワゴン財団」


ジジィの指摘に、ああそうだっけ、と、男はまた笑った。ふざけたヤローだぜ。
それで、用件は、と仗助が問うと、男の笑みが変わった。へらへらした笑顔じゃない、笑っているのに、目だけはどこまでも真剣な、不思議な笑顔に。


「君が見たっていう怪物について、教えてほしいんだけど」









用件を言ったら、目の前のお兄さん達とお姉さんが固まりました、まる。あれ、これって俺のせい?俺のせいなの?
どうしようかな、叩いたら戻るかなあ、なんて考えてるうちに、いつの間にかフリーズ解除されてたジョースケくんが、俺の肩をガッとつかんだ。ちょっ、痛い痛い痛い!!ミシミシいってるからやめてええええええ!!


「アンタ、信じてくれるんスか?!」

「いや信じるも何も情報が欲し……いだだだだだだだ!!痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!ジョースケくん痛いから!!肩!!俺の肩放して!!揺さぶらないで!!」


俺の中身でちゃうから!いろいろと溢れ出しちゃうから!
見かねた周りのお兄さん達がジョースケくんをなだめてくれて、俺の肩は無事に解放された。じんじんするぞコノヤロー。動かすには問題ないと思いたい。
若干涙目になってると、俺を出迎えてくれたお兄さんが大丈夫?と言ってくれた。ありがとうお兄さん、できればもう少し早く助けて欲しかった。


「その前に、テメーは誰だ」

「帽子のお兄さんお願いだから睨まないで……俺チキンなんだよチキンハートがブロークンしちゃうよ……」

「答えろっつってんだよ」

「ごめんなさいごめんなさい!俺はアルバっていいます現役のハンターですだから人間は専門外なんですぅううううううう!!」


帽子のお兄さん超怖い。本当に怖い。睨まれたらモンスターでも道譲るレベルだと思う。ごめんなさい何でもするからぶたないで!!……いや別にぶたれるくらいならいいけどさ。
名乗ったら帽子のお兄さんは俺を睨むのをやめてくれた。ありがとうございますいや本当に怖かった。


「ハンターって、トレジャーハンターとかってこと?」

「いんや、狩人。本当に狩猟するほうね。んでもって、俺は《モンスターハンター》。モンスター専門のハンターでございますよー」


ちゃんと正直にいったのに、聞いてきた張本人である前髪が跳ねてるお兄さんはひきつった表情をしてた。え、何その痛い子見る目は。……こっちって、モンスターは一般的じゃなかったんだっけか。しまったやらかした。


「へえ、すごいね!あ、僕はジョナサン。さっき質問したのがジョセフ、帽子を被ってるのが承太郎、女の子が徐倫だよ。よろしくね」

「え、あ、このタイミングでまさかの自己紹介?よろしく、ええと……ジョナ?」


うん、と、さっき案内してくれたお兄さん―――ええと、ジョナは笑った。それから、前髪跳ねてるのがジョセで、帽子が承り。情報主がジョースケで、女の子が徐倫ちゃん。た、多分大丈夫。多分ね!
さて、ジョースケに情報を聞こう、と思った瞬間に、耳をつんざく咆哮が響いた。あーあ、なんか来ちゃったよ。
……って、うえええええええ?!なんか出た!なんか出てる!!承りとジョースケと徐倫の後ろになんか人がいるうううううう!!ホラーか。ホラーなのか。


「はいはいちょっとどいてね!俺のお仕事の時間ですやっほい!」

「はあ?!あんた何言ってるのよ?!」

「俺の仕事だもん狩らなきゃダメっしょ!てことでおとなしくしててね!その後ろの人?だかなんだか知らないけど、彼らにもそう言ってね!」


止めるような声が聞こえたけど、ごめんね無視させてね!
窓から外に飛び出る。海と海岸に人気はない。けど、何かがいるのは分かってる。
手を前に出して、その名前を呼ぶ。いつからかできるようになった、あの力で武器を出す。


「《王牙琴【鳴雷】》!!」


呼べば出てくる、使いなれた俺の武器。美しい蒼色をした、ギターのような形の狩猟笛。
右にぶん回し、左にぶん回し、そして吹く。よし自己強化完了、ってね。


「さあて、一狩り行きますか!」






取り合えず一歩目をぴょんっと。
(ところで、背後からの視線がめっさ痛いんだけども)



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