屍の上の王座(元就) 「行け、恐れなど抱くでない」 そう我が言ったのは何刻前の話だろうか。 豊臣との戦、完璧なはずの我の策は破られた。 もう残りの兵など零に等しい、見えるのは赤く塗れた若草の色ばかり。 「元就様」 横から凜とした声が鼓膜を震わせる。 我と同じ髪型、輪刀、そして戦装束。 影武者であり側近の玲が、何時もの笑顔でそこに立っていた。 「…何ぞ」 「この玲、元就様にお仕え出来たこと、この上ない喜びと思っております」 それこそ何時ものように、変わらない声色はこの戦場に酷く不釣り合いだった。 きしり、輪刀が軋む。軋む。 「戯れ事はいらぬ」 「戯れ事ではございませぬ。…そして貴方様と友であれたこと、とても誇りに思いまする」 何故この時にそんな事を申すのか。 怪訝な目を向けると、背後から喧しい足音が聞こえてきた。 「元就!玲!大丈夫か?!」 「長曾我部…!何故貴様がここいる?!」 「この玲がお願い申し上げたのです、元就様」 玲はそのまま、我の前に跪づいた。 顔は伏せられ、表情が伺えぬ。 「元就様、駒の分際で判断したこと、どうかお許し下さい。…ですが、こればかりは譲れませぬ」 玲は立ち上がると、我の被る兜をそっと持ち上げて、その頭に被る。 脆く、儚く、何よりも綺麗に、笑った。 「元就様、どうか生きて下さいませ」 「待て、貴様は…!」 「長曾我部様、お速く!すぐそこまで敵は迫っております!」 「…あぁ。オイ元就、行くぜ!」 長曾我部に言われようと、我は動けぬ。 輪刀を握る手に力が篭った。 「…玲、貴様は駒の分際で我に逆らうか」 「申し訳ありませぬ」 「そのような事が聞きたいのではない!」 怒鳴っても、何を言おうにも、玲は動かぬ。 やはり、笑ったまま。 「元就様、将棋と同じでございます。玉が倒れてしまえば負けてしまいまする。…だから、」 「貴方は生きなきゃ駄目だよ、―――松寿丸」 幼名で呼ばれて、ハッとした。 玲の顔は駒ではない、我の唯一の友としての顔をしている。 ゆっくり近づいて来る玲の唇が、そっと我のものと重なった。 「…ごめんね」 小さな、風にさらわれそうな謝罪は、何に対してだったのか。 玲の持つ輪刀が、軋む。 「…元親。元就をよろしくね?」 「任せろ、…玲」 「ありがとう」 我を抱えるように長曾我部が担いで、固有技で素早くそこから離れる。 小さくなっていく、若草色。 「離せ長曾我部!」 「離すかよ!玲が望んでんだ、俺はそれを果たす!!」 その後、我は長曾我部の船まで来させられた。 玲の安否は、…うやむやな、まま。 屍の上の王座 (玉が倒れたら負けの遊戯) (元就、貴方を倒させなんかしない) (我が儘で、ごめんね) --------------------------------- ザ★意w味w不www\(^p^)/← 何だか続きそうですね。← 最初に思いついたのは将棋のくだりで、それを言わせたいが為に書きましたw 元就元親夢主は幼なじみってことで。 091118 |