愛すべき【精神】。 「―――仲達様。統羽、戻りましてございます」 仲達様の部屋の前で声をかける。入れ、とのお言葉の後、扉を開けてから拱手。それから、御前まで歩いていく。 「どうであった?統羽」 「問題ございません。御子息にもお会いしました」 「そうか。驚いていただろう?その表情を見たいものだな」 くつくつ、と笑うお姿に私も微笑む。ずっと会っていなかったというのに、懐かしさは薄い。ただ、そこにおられるのだと実感するだけで。 統羽、と固い声で呼ばれた。短い返事を返すと、仲達様は戦場のような、或いは策を考えておられるような、真剣な表情をされる。 「それで、首尾は?」 「上々です。北の憂いは絶たれたとみて問題は無いかと」 多くの言葉は、この賢明なお方の邪魔になる。だから、必要最低限で、要所だけをかい摘まんで。 そうか、と不敵な笑みと共に紡がれる言葉。それから、手招きをされるがままに近付く。 仲達様の前まで来て立ち止まった。向けられる、鋭い眼。 「―――茶でも飲むか。付き合え」 「仰せのままに。準備をしてまいります」 一礼して、退室。お茶と肴を用意して、仲達様の部屋へと急いで戻る。 仲達様にお渡しして、後ろに控えようとすれば、仲達様は不機嫌そうに統羽、と呼ばれた。 失礼致しました、と常套句を紡いで、御前へ座る。 「昔から何度も言っているだろう、馬鹿めが」 「そうでございますね。ですが、本来有り得ぬ事ですから」 そう苦笑いを零せば、仲達様はふいと顔を逸らされた。 可愛らしいお方。勿論口には出さないけれど。 冷めぬ内に、と促し、私も口をつけた。喉が渇いていたわけでは無くとも、身体が潤うような錯覚に陥る。 「―――師と昭を、どう思う?」 暫くの沈黙をおいて、仲達様が呟くように言葉を紡いだ。 感情が分からぬようにしているのが良く分かる。それを指摘するような野暮はしない、そうですね、と子元殿と子上殿の事を思い浮かべる。 「お二人とも仲達様に良く似た御子息かと。子上殿の言動が少々心配ではありますが、やるときはやる方ですから」 「……そうか」 穏やかな表情は、紛れも無く親の顔。 子元殿の"凡愚"発言にやたらと納得したのは、心の奥に仕舞うことで決定、と。 けれど仲達様は直ぐにしかめ面をされた。 「……"子上殿"?」 「はい。子元殿と子上殿です」 間違ってはいないはず、と思案していると、仲達様の表情は更にしかめ面を。 躍起になったように茶を飲み干して、統羽、と固い声で呼んだ。 「何故そうなった?」 「子元殿と子上殿から許可をいただきましたので」 あのお二人らしいではありませんか、と続ければ、腑に落ちない顔をされた。その昔、仲達様も同じ事をおっしゃったからだろう。 くすくす、と笑いを零すと、笑うな馬鹿めが、と何時もの照れ隠しを。 愛すべき【精神】。 (知識も思考も感情も貴方のために) 120108 |