愛すべき【宣言】。 「あー……畜生、」 何時もなら木々に囲まれて目覚めるんだが、今日は違う。 豪華とは言えねえが、必要最低限の寝具やらその他諸々。何より屋根があるって事は大違いだ。寝てる間に雨降られるとそりゃあもう災難だからさ。 でも今はそれ以上に災難。蜀に(無理矢理)滞在中。 俺さあ、此処の人間と根本的に合わないんだよ…。え?決め付けだって?知るか。 くあ、と欠伸を一つして、身なりを整える。 食事は慎んで辞退しておいた。こればっかりは、流石に押し切られるわけにはいかない、と。 前に自分で取った実やら何やらを口に入れて、咀嚼。そろそろまた取りにいかねえと、大分減ってきた。 窓から顔を出して、辺りを見回す。うし、誰もいねえな。 窓枠にかけてた足に力を入れる。とん、と軽く飛び出して、森の方へ。さあて、ちゃきちゃき終わらせますか! * うし、大分採れたし、これで暫くは持つっしょ! ほくほくしながら道を戻る。いやさあ、一回勝手に出ていこうとしたら全力で捜索されてさ……あれはないわ、うん。 思い出して大きく溜息。いい加減、出ていく方法考えねえとなあ……。 その思考は、人の声でぶつ切りにされた。近くに、三人。男が二人、女が一人……か。 咄嗟に気配を隠す。どうせなら見付かりたくない―――面倒事に巻き込まれそうだ。 そろりそろり、忍び足で通り過ぎようとした、が。 「……そこに、誰かいるの?」 やべえ、見付かった。逃げられねえじゃん、逃げたら敵認識だよなコレ。ああ、めんどくせえ! 採った物を慌てて袋に纏めて、ひょっこりと顔だけだしてみた。驚いたような顔をする女と、きょとんとした男が二人、こっちを見据えてる。 「あー、その……邪魔したなら悪い。気にしないでくれや」 へら、と笑ってみた。似合わねえのは百も承知だコノヤロー。自分で言ってて悲しいけどな! じゃあ、と踵を返そうとしたとき、待って、と声がかかった。女の声だ。 「貴方が、客人なの?」 「客人ってか此処の殿様が無理矢理此処に居させてんだよ。俺は出て行きたいんだけど……丁度良い、君さ、上手く言えない?」 「無理ね」 おぉう、素晴らしく即答されてしまったよ……。ってことはアレか、俺一人で何とかしろって事ですね分かりました。全力で運命を恨んでやる! ですよねー…と一人で引き攣った顔を晒してると、きょとんとして固まってた男二人が漸く元に戻ったようで、俺をじっと見据えていた。 「あー……おにーさん達、俺に何か?」 出来れば何も無いで欲しいけど、まあそりゃあ無いだろうな。悲しいことに。 男二人は俺の声かけに少し慌てたようにしてから、会釈するように頭を下げた。どーして俺相手にそんなことすんのかねー。 「せ、拙者は関平と申す!」 「私は関索と申します」 何故か急に名乗られたんだが。いや礼儀って分かってるけどさ、どーゆーことなのコレ。 そこまで来て、ふと一ツ気になることが。同じ軍なら、まあ……有り得なくもないからな。 「こりゃご丁寧にどーも。お兄さん達あれか、軍神の血縁?」 軽い調子で聞いてみれば、はい、とイイ返事が返ってきた。軍神を尊敬してるか、目標としてるか……何かしらの感情は持っているらしい。俺とは、大違いだ。 因みに、女―――星彩は燕人・張飛の娘らしい。うんゴメン、それなんて突然変異? 「そっか。……んでさぁ、俺の腕を引っつかんでる理由は?」 両腕を関兄弟ががっちり掴んでるんだけど。何コレ嫌な予感しかしない。 恐らく引き攣っているだろう表情をそのまま向けた、関兄弟はめっさイイ顔をしてる。……純粋ゆえにタチ悪ぃ! 「父上が是非とも、貴殿に稽古をつけていただけ、と!」 「あんの軍神んんんんんんんんんん!!俺に面倒事押し付けんじゃねえよおおおおおおおお!!絶対やらねえからなあああああああああ!!」 やっぱりこの国、俺には無理だ! 愛すべき【宣言】。 (逃げ場はもう塞いだ。さあ突っ走れ!) 120415 |