愛すべき【宣言】。







「あー……畜生、」


何時もなら木々に囲まれて目覚めるんだが、今日は違う。
豪華とは言えねえが、必要最低限の寝具やらその他諸々。何より屋根があるって事は大違いだ。寝てる間に雨降られるとそりゃあもう災難だからさ。
でも今はそれ以上に災難。蜀に(無理矢理)滞在中。
俺さあ、此処の人間と根本的に合わないんだよ…。え?決め付けだって?知るか。

くあ、と欠伸を一つして、身なりを整える。
食事は慎んで辞退しておいた。こればっかりは、流石に押し切られるわけにはいかない、と。
前に自分で取った実やら何やらを口に入れて、咀嚼。そろそろまた取りにいかねえと、大分減ってきた。
窓から顔を出して、辺りを見回す。うし、誰もいねえな。
窓枠にかけてた足に力を入れる。とん、と軽く飛び出して、森の方へ。さあて、ちゃきちゃき終わらせますか!









うし、大分採れたし、これで暫くは持つっしょ!
ほくほくしながら道を戻る。いやさあ、一回勝手に出ていこうとしたら全力で捜索されてさ……あれはないわ、うん。
思い出して大きく溜息。いい加減、出ていく方法考えねえとなあ……。

その思考は、人の声でぶつ切りにされた。近くに、三人。男が二人、女が一人……か。
咄嗟に気配を隠す。どうせなら見付かりたくない―――面倒事に巻き込まれそうだ。
そろりそろり、忍び足で通り過ぎようとした、が。


「……そこに、誰かいるの?」


やべえ、見付かった。逃げられねえじゃん、逃げたら敵認識だよなコレ。ああ、めんどくせえ!
採った物を慌てて袋に纏めて、ひょっこりと顔だけだしてみた。驚いたような顔をする女と、きょとんとした男が二人、こっちを見据えてる。


「あー、その……邪魔したなら悪い。気にしないでくれや」


へら、と笑ってみた。似合わねえのは百も承知だコノヤロー。自分で言ってて悲しいけどな!
じゃあ、と踵を返そうとしたとき、待って、と声がかかった。女の声だ。


「貴方が、客人なの?」

「客人ってか此処の殿様が無理矢理此処に居させてんだよ。俺は出て行きたいんだけど……丁度良い、君さ、上手く言えない?」

「無理ね」


おぉう、素晴らしく即答されてしまったよ……。ってことはアレか、俺一人で何とかしろって事ですね分かりました。全力で運命を恨んでやる!
ですよねー…と一人で引き攣った顔を晒してると、きょとんとして固まってた男二人が漸く元に戻ったようで、俺をじっと見据えていた。


「あー……おにーさん達、俺に何か?」


出来れば何も無いで欲しいけど、まあそりゃあ無いだろうな。悲しいことに。
男二人は俺の声かけに少し慌てたようにしてから、会釈するように頭を下げた。どーして俺相手にそんなことすんのかねー。


「せ、拙者は関平と申す!」

「私は関索と申します」


何故か急に名乗られたんだが。いや礼儀って分かってるけどさ、どーゆーことなのコレ。
そこまで来て、ふと一ツ気になることが。同じ軍なら、まあ……有り得なくもないからな。


「こりゃご丁寧にどーも。お兄さん達あれか、軍神の血縁?」


軽い調子で聞いてみれば、はい、とイイ返事が返ってきた。軍神を尊敬してるか、目標としてるか……何かしらの感情は持っているらしい。俺とは、大違いだ。
因みに、女―――星彩は燕人・張飛の娘らしい。うんゴメン、それなんて突然変異?


「そっか。……んでさぁ、俺の腕を引っつかんでる理由は?」


両腕を関兄弟ががっちり掴んでるんだけど。何コレ嫌な予感しかしない。
恐らく引き攣っているだろう表情をそのまま向けた、関兄弟はめっさイイ顔をしてる。……純粋ゆえにタチ悪ぃ!


「父上が是非とも、貴殿に稽古をつけていただけ、と!」

「あんの軍神んんんんんんんんんん!!俺に面倒事押し付けんじゃねえよおおおおおおおお!!絶対やらねえからなあああああああああ!!」


やっぱりこの国、俺には無理だ!







愛すべき【宣言】。
(逃げ場はもう塞いだ。さあ突っ走れ!)



120415
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