愛すべき【迷宮】。







「おお、そなたが趙雲達の言っていた者か!」

「知らねーよ。つうかどんな説明?何でそんなキラッキラの目で俺見るわけ?ウザい、失せろ」

「ははは、聞いた通り、口は随分とやんちゃな様だ」

「……この君主にしてあの部下ありか…」


俺はさぞかしブスッとした顔してると思う。てか何で俺此処に居んの?全力で帰りてえ!
しかも聞いた通りってそこ?そこなの?なら追い出すだろ普通さぁ!
俺の前には男が三人。どれもこれも見聞きしたことがあるような感じだが、そんなん無視だ無視。俺はとっとと此処を出てきたいんだって。


「私は劉玄徳。部下を助けてくれたこと、礼を言わせてくれ」

「へーへー。礼なんか良いから帰らせてくんね?」


頼むよ、そのためなら頭も下げるからさ。
なーんて、随分と自尊心の低いことを考えていると、劉備の横に控えてた将(どう考えても見たことある)が、そろって俺に眼を向けた。
敵意や警戒じゃない。どちらかと言えば、……そう、興味だ。
ジト目でそっちを見据えてやる。早く追い出せ的なこと言ってくれー、瞬時に出てくから!
けどその願いむなしく、二人の将は俺に向けて口を開く。


「拙者は関雲長。うむ、良い眼をしている者よ」

「俺は張翼徳!兄者の目に留まるなんざ、運が良いな!」

「良くねえよ寧ろ不運だバカヤロー」


思わず口をついて出た悪態。これで追い出してくれねえかなー、なんて思ってたが、軍神・関羽も燕人・張飛も、分かったように笑うだけ。もう嫌だコイツら。
隠さずに溜息をついた。俺、こんなに不運だったっけ?


「貴殿の名を教えてはくれぬか?」

「断固拒否。俺は帰りたいって言ってんだろ!」

「断固、と言うのか?」

「違ぇっつの!どんだけ都合良い思考してんだこの君主!ああもう!凍会!俺の名は凍会!」


凍会と言うのか、とニコニコする劉玄徳。コイツわざとやってんのか?性質悪すぎるだろそれなら。
頭を抱えたら、大丈夫かと心配された。ありがたいけどコレお前のせいだからな。
そしてその頭痛は、コイツの一言で更に悪化することになる。


「では凍会、蜀に滞在しないか?」

「……………………………………は?」


たっぷりの間を開けて、俺の口から出たのは何とも情けない怪訝。
劉玄徳は相変わらずのニコニコ笑顔。うわあ本気でうぜえ。何でだか知らねえが、両側にいる関羽も張飛も、それは良い流石だぜ兄者!的な目してた。
えぇー……どうなってんの本当に。


「世話になる理由が無い。だから俺はこの辺でおいとま―――」

「そうか、では雲長!凍会を客間にご案内して差し上げてくれ!翼徳!私達は宴の準備をしよう!」

「了解した、兄者。では凍会殿、拙者について来られよ」

「おう!任せろ!」

「テメェら頼むから言葉理解しろよ!!」


俺の意思は丸無視で拒否権ないとか、どんだけなんだよコノヤロウ!!






愛すべき【迷宮】。
(思う存分迷ったその後は優しく迎えて)



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