愛すべき【時間】。




「あ、の……甄姫さん?蔡文姫さん?何故、自分は此処に……」

「あら、お話をしたかったのですけれど……ご迷惑で?」

「いえ、そうでは無く……もういいです、何でもありません」


なら良かったですわ、と微笑む甄姫さんは綺麗だけど、何処か怖さも滲み出ていた。三成が言ってたことが分かったかも。
蔡文姫さんも綺麗に微笑んだまま。ここは大人しく、お二人に従おう。
促されて腰を落ち着けた。目の前には美味しそうなお茶と、菓子が綺麗に並べられている。


「どうぞ、召し上がってください」

「あ、ありがとうございます」


勧められるままにお茶を一口。向こうのお茶とはちょっと違った味が、凄く新鮮で美味しい。
甄姫さんと蔡文姫さんも座って、お茶と菓子を手にとっていた。自分よりも明らかに絵になるので、どうしても見惚れてしまう。


「あら、三春。ぽかんとしていますわよ」

「す、すいません。お二人が並ぶと絵になるなと思って……」


素直にそう伝えれば、お二人は穏やかに笑まれた。それが何だか気恥ずかしくなって、逃げるようにお茶を一口。
三成達と良く飲んでいたお茶とは違う味、なのに、何故か酷く懐かしくて。
寂漠が頭をもたげる。この間も感じた、疎外感にも似る寂寥感。
お茶は自分の顔を映していたけど、ゆらゆらと揺れて覚束ない。今の、自分みたいに。


「どうかされましたか?」

「え?」

「悲しそうな顔をされています」


蔡文姫さんに言われて、慌ててへらりと笑った。居させてもらってるのに、皆さんがいらっしゃるのに、そんな顔なんか見せられない。


「ごめんなさい、ちょっと疲れてるのかもしれません」

「まあ、無理に誘ってしまいました?」

「い、いえ!そんなことはありません!寧ろ、嬉しいです」


甄姫さんの言葉には、少しだけ本心を返す。
嘘はついてない。ただ、全部を吐露していないだけ。一人で居ると、三成たちが恋しくなるなんて、言えない。
お二人は不思議そうな表情をされていたけど、それ以上詮索をされることはなかった。


「ねえ三春、」

「はい、何ですか?」

「帰れるまで、居ていいのですわよ。我が君も、それを望んでいらっしゃるの」

「――――――え、」


甄姫さんの言葉に、思わず素が出た。けど、それを取り繕う余裕もない。今、何て。
絶句する私に、甄姫さんは美しく微笑んだまま。蔡文姫さんも、穏やかに私を見据えていた。


「だから、何でも言っていいのですわよ」

「私達がいます。どうか、一人で抱え込まないでください」


お二人の言葉に、視界が歪んだ。泣くな、泣いちゃいけない。私は、"  "なんだから。
ごまかすようにへらりと笑って、でも嘘偽りなく、心の底から言葉を紡ぐ。


「ありがとう、ごさいます」





愛すべき【時間】。
(戻りたいのか進みたいのかも分からず)




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