君を守るため おまけ
「…あのさ、昴さん」
ナマエはマグカップを洗いに台所へ立った。沖矢は洗い物ぐらい自分がやる、といつも言うのだが、ナマエも譲らない。料理を任せているからと、ナマエが率先して洗い物をするのはもういつものことだ。
「何ですか?」
こっそりと耳を寄せてきたコナンに、沖矢もあわせて身をかがめてやった。
「………ナマエ姉ちゃんの部屋にまで、盗聴器仕掛けてないよね?」
小学一年生とはとても思えない鋭い目つきには、どこか焦りのようなものが見える。コナンの正体が沖矢の考えている通りのものだとしたら納得もいく。もし盗聴するとしても絶対に悪用などしないと分かっているはずなのに、かわいい妹が盗聴されるのは、また別の次元の話なのだろう。
「………さあ。私があの子にあげたのは、愛らしい熊のぬいぐるみくらいのものですよ」
コナンは何とも言えない表情で沖矢の顔を見詰めた。沖矢もまた、食えない表情でコナンの顔を見返す。
先に音を上げたのはコナンの方だった。
「…ボク、信じてるからね」
それだけ言ってそれ以上の追及を諦めたコナンに、沖矢は笑みを深めた。
「奇遇ですね。あの子にも同じことを言われましたよ」
***
朝、寝間着を着替えようとしたナマエは、ふと視線が気になって、先日もらったばかりのティディベアを抱き上げた。後ろを向かせてもいいが、どこに何が取り付けられているか分からない以上、それだけでは気持ちが落ち着かない。
…着替えの時は目隠しをしていると彼に知られたら気を悪くされるだろうか。いやそもそも着替えの時は視ないだろうから、目隠しをしている事実すら知られるはずがない。その事実を知るということはイコールで着替えまで見ているということになる。
「……これでいいか」
いろいろ考えた結果、シーツをかぶせることにした。シーツにくるまったティディベアを見て、ナマエは、誰にともなく「うん、これでいい…よね」と呟いて、ようやく着替えを始めるのだった。
“見て”はいないものの、盗聴器で音を拾っていた沖矢は、自分はそこまで信用がないのか、と流石に苦笑した。
…恐らくは盗聴器に気付いているだろうに、それを取り外しもしない程度には信用されているとは、思ってもよいのだろうが。
どうやらたまに夜に呼吸不全に陥るらしい彼女への対策も、これで安心である。毎夜ドアの前に立って耳をそばだてる訳にもいかないので、盗聴器を除去されないのは単純にありがたかった。守らなければならない最優先の少女は隣家の少女だが、同居人の少女とて赤井とコナンが守りたい者の中に入っているのだから。