モーテルとポーカー

 結局、カールスパッド洞窟という、コウモリの集団飛行で有名な洞窟に着く頃には夜になっていた。洞窟見学は明日にすることにして、今日こそはベッドでゆっくり眠ろうと少し離れたモーテルに車をつける。

「60ドルかあー」
「お金のことなら気にしなくていいですよ?」
「いや、流石に自分で払います。ここまで全部出してもらってますし」

 慌てて顔の前で手を降ったナマエの横からシュウが口を挟む。

「じゃあドミトリーにするか?四人部屋で20ドルくらいだろ」

 ドミトリーは複数人で泊まる宿だ。ナマエはそれもありかと一瞬考え込んだが、却下した。全員同じ部屋になれるかも分からないし、

「私たちと同室になる残り一人が可哀想な気がするのでやめときます。…ま、だいぶ日程も短縮できたし、これくらいは…」

 大丈夫です、と言おうとしたナマエは後ろからぼす、と頭を叩かれ、上着を掛けられる。犯人はシュウだ。

「ちょっ、何です?」
「ツインでレイと入っていてくれ。俺は後から忍び込む」
「はぁ?そんな貧乏学生みたいなこと」
「ばれずに忍び込める自信はある。安心しろ」
「っええー」
「どうせゲイカップルにはあたりが強い。」

 そう言うとシュウは荷物をナマエに押し付けて颯爽とどこかへ行ってしまい、結局、三人でツインの部屋に泊まることになった。この暑いのに夜は一体どうするつもりでいるのか。
 部屋で待っていると、深夜近くにビールやら何やらを買い込んできたらしいシュウが部屋に忍び込んできた。

「…うーん、すばらしい身体能力ですけど、こんなことに使っていいんですか?」
「問題ない」

 いや、あるだろ。
 そう思ったが、節約できるのはありがたいので、とりあえず甘えておくことにした。頭の隅に男ふたりと同じ部屋に泊まる危険性がちらっと過ぎらないでもなかったが、この数日のドライブでナマエはすっかり二人に気を許してしまっていた。

 モーテルは安い割に結構小奇麗で、ベッドサイドには聖書とトランプが置いてあった。備品なのか、誰かの忘れ物なのか。

「ポーカーでもします?」
「折角だから何か賭けるか?」
「悪い大人だぁー…」
「二十歳になったんだろ?お嬢ちゃん」

 にやり、と笑ったシュウは、悔しいことにかなり悪格好良かった。





「ちょっと待ってください、スペードのエースもダイヤのエースもこっちにあるのに何でレイとシュウがスペードとダイヤのロイヤルフラッシュなんですか!」
「さあ。誰かがイカサマでもしてるんでしょうかね」
「そんな手腕があったとは驚きだな」
「うわ、しれっと…!」

 ベッドの上にはトランプとシュウが買って来たつまみが散らかっている。ナマエはやけくそにトランプを散らした。

「もお、二人とも初心者に手加減くらいしてくれてもいいじゃないですか」
「それでも負けは負けだ。罰ゲームだな?」
「………悪い大人め」

 ナマエはやけ酒でも呷ろうと、床に並べられているコロナビールを手に取ったが、瓶の蓋が開かなくてよりいっそうむしゃくしゃした。「もー!」とベッドに顔を押し付けると、レイが笑いながらナマエの手から瓶を奪い、軽くポン!と開けてくれた。シュウが器用に小さなナイフでライムを切り分けて、瓶の口から中に押し込んだ。

 罰ゲームは、初恋の話をすることだった。この罰ゲームを言い出したのは意外にもシュウで、ナマエは「恋人の目の前なのにいいんですか?」と抵抗したが、シュウは「今更過去の恋人の話を聞いたくらいで俺の彼への愛は変わらない」なんて気障なことをさらっと言い切った。レイは「あなたの初恋なんて聞きたくもありません!」と言ったが、それにもシュウは「じゃあ負けないようにしないとな」と言って不敵に笑っただけだった。最初から二人とも負ける気なんてなかったに違いない。本当に、悪い大人だ。…ずるい。



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