ホット・サマー
「……あづい”」
体中があつい。岩風呂で蒸されているようだ。顔を傾けて寝ていたので、目を開けると、前髪から垂れて来た汗が目に入った。気付くと、寝る前には無かった誰かの上着が肩に掛けられている。暑いはずだ。
「上着かけたの誰です」
Me, と答えたのはシュウだった。そう言うシュウは一枚脱いでタンクトップ姿になっている。
「直射日光の方が暑いかと思ってな」
「それはありがとうございます、でも汗で蒸れちゃいましたよ、上着」
「構わんよ」
気づけば辺りの様子はすっかり変わっていた。緑は少なくなり、地を這うように草が生えているばかりだ。
「何か飲みもの…」
「沸騰しそうなコーラならそこに」
「うわぁ…」
「サイダーならまだましでしょう。ライムもありますよ」
シュウが指したコーラを見てげんなりしたナマエに、涼やかな色の瓶を差し出したのはレイだ。袋に入ったライムはびっしりと水滴を纏っている。
「これ、腐ってないですよね」
「さっき寄ったスタンドで手に入れた奴ですから大丈夫ですよ」
「あれ、アイスの棒…あっ、ふたりしてアイスキャンディーでも食べたんですね?ひどい、どうしておこしてくれなかったんですか」
「よく寝ていたので。すみません」
後部座席に掛けられているゴミ袋に入っていた棒切れを目ざとく見つけたナマエに、レイは悪びれない顔で謝罪をした。
「次デニーズでも見かけたら入るか」
「こんなところにデニーズ?」
「さっきあった」
「もうしばらくないでしょうけどね。それよりナマエ、汗いったん拭いた方がいいですよ」
「んー…」
レイはお兄ちゃんというよりお母さんだな、と茹だった頭で思ったが、言わないだけの自制心はまだ残っていた。
肘や膝の内側で汗が結晶化していた。夏のテキサスの暑さは伊達じゃない。
「ライムもいいけどしょっぱいのが欲しい…」
塩分補給しないとそのうち倒れそうだ。自分の汗からできた塩でも栄養にはなるだろうか?ナマエはろくに回らない頭で結晶化した汗を見詰めた。
「さっき干からびた塩湖がありましたね。戻ります?」
レイが揶揄うように笑ったのに、ナマエが思わず不貞腐れると、横から無造作に紙袋を差し出された。中にはスナックが入っている。
「ちゃんとお前の分も残しておいた」
「………ありがとうございます」
スナックは油っぽく、かつしょっぱかった。まあ塩分補給にはなるだろう。